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リオーナはロボット兵の夢を見るか

この本の翻訳者である岸本佐知子さんが反トランプ・ブックフェアの一冊としてこの本をツイートしていたと聞いて、フィルの行動を見ればそれもむべなるかな、と思う。
そもそも登場するキャラクターが人間ではない時点で読み手は寓話の世界に誘われ、寓話性が高くなれば物語の汎用性も高くなるわけだから、執筆時に想像すらしてないトランプが当てはまるのも当然だ。
しかし、トランプであれ誰であれ、ソーンダーズはそういった独裁者の愚かさを主題にすえたとは僕には思えない。

なにより、独裁者の愚かさを言うだけであれば、この小説のあのラストシーンはなんになる?
僕はあのラストシーンが不思議でならないのだ。
デレク&ドミノスの「レイラ」の後半のインストばりに「必要だろうか?」と偏狭にも思う。

で、僕なりにいろいろ調べてみた。

ソーンダーズはブッシュJr.の大統領再選について新元良一さんのインタビューを受けているが(「アメリカン・チョイス」収録)、その際ブッシュ本人よりも民主党がブッシュ・バッシングをすることを怠慢だと言い、容易く二分論や分断を口にすることを戒める(2004年11月23日)。
小説がアメリカで出版されたのは2005年、上記インタビューで「諷刺を用いて物語を作るには、……自分の内面をどれだけ引き出すかが作家に求められる」と応えていることからすれば、やはり独裁者そのもの(たぶん独裁者とは愚かなものだからわざわざそれを言うまでもないのだ)よりもそれに対峙する者の姿勢こそ問いかけたいとソーンダーズは考えているように思える。

2013年のシラキュース大学での卒業式でのスピーチでは、自分のこれまでの人生で最も後悔しているのは、仲間はずれにされていたある少女へのやさしさが足りなかったことだと述べている。
「人生で大切なたったひとつのこと」(このスピーチが翻訳された際の日本でのタイトル)は、人に対して「もっとやさしくなること」だ、と。

ラストでリオーナは〈異形の者〉を訪れ、そこでよりよい世界を夢見る。
そこに二分論的な拒絶やバッシングは欠片もなく、彼女のやさしさだけを感じる。
とても短い一コマだ。
だからこそ、むしろこれは藁の山に隠されたピンなんだと思えてきた。

その〈異形の者〉が朽ちているところは「天空の城ラピュタ」の緑に囲まれ朽ちているロボット兵に似てないだろうか。
ロボット兵がかつて殺戮を繰り返していたのもフィルの姿と重なる。

はたして、ジョージ・ソーンダーズがラピュタを観ているかは知らないが、僕はその連想から最初に較べてちょっぴり彼の想いが理解出来たような気がしたのは確かだ。

#読書の秋2021
#短くて恐ろしいフィルの時代
#ジブリ
#天空の城ラピュタ
#ロボット兵

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