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能登半島地震について ~限界集落と多様性~ (2)


(1800字程度)


 さてここに来て我々は、この手の論者たちの欺瞞を発見してしまった。
 ここで、この手の論者たちのあり様とでも呼ぶべきか、彼らの発想の特徴的な部分を、もう少し深掘りしてみてはいかがだろうかと、私は考える。

 彼らの発想の在り方として、実に特徴的なのは、全体と個の視点のバランスの悪さだ。
 全体の数値から浮かび上がる物事のあり様を的確に把握すること。このことに関して、彼らには、驚くほどの能力が備わっている。
 珠洲市の人口が何人で、輪島市は何人。限界集落の定義として、六十五歳以上の割合が何人で、日本の限界集落の数は、全体でいくつ。現在ある産業の再振興を目的とした施策の為に、外から入って来た人が何人。能登地域のどこどこからどこどこまでの面積。半島に沿う具合にして伸びる道の長さ、どこどこからどこどこまで、およそ何キロ。ある地域からの病院へのアクセスは、最も近いところでも、車で何十分。少し意地の悪いところでは、完全有業者率というものの割合までが、載っていた。簡単に言えば、所得があって、年金などのお世話になっていない人の割合だ。
 そういうマクロ的な数値を丁寧に追っていけば、わずかながらも、その地域の実情を垣間見ることができた気になってくる。そういった数値も、現状把握においては、実に有効だ。
 しかし、数値はあくまで数値だ。全体的な傾向を浮かび上がらせる数値をどれだけ見事に並べ立てたところで、数字は人の表情を表してはくれない。自由や、権利や、地域にしがみつく理由や、そういった人間の営みまでを、全て、数字のみで表すというのは、無謀な挑戦と言っていいほど困難なものだ。そして、それら人間臭い感情や、人を支える理念を抜きにして、社会を語ることはできない。
 そうであれば、個人の利益と、社会全体の利益と、双方の詳細を記述し、どちらの利益を優先すべきか、議論を促すしかない。
 しかし驚くべきことに、この手の論者たちは、個人の有様の方に限って、ほぼ全くと言っていいほど、記述しない。まるで、社会の決定すべき事柄は、正しさではなく、多数決で決められる、とでも考えているかのように。
 彼らは、限界集落における年金受給者の割合の高さを、とくとくと語る。だから何だというのだ。今現在は年金を受け取る側であっても、彼らだって年金を払っていた時期があったはずなのだ。
 一方の数値のみを取り上げるのならば、いっそ取り上げない方がましだ。数値の解釈と言うのは、取り上げる数値次第で、いかようにも誘導できてしまうのだ。
 彼らには、何よりもまず、結論がある。不都合な点に関しては、思考する意思がない。その不誠実さに関しては、非難を免れることはできないだろう。

 それではなぜ彼らは、そんな不誠実な論の進め方をするのか。異論の噴出も必至の、一方的な書き方しかしないのか。
 思うに、彼らにとってマイノリティーとは、マジョリティーの妨害をする存在としてしか、みなされていないのだ。
 多様な人間がいて、多様な意見が存在すること。そういった多様性というものは、彼らにとっては、逸脱であり、本来あるべきところから逸れた非合理なものでしかないのではないか。

 辺鄙な場所に住み、病院や学校からも遠ざかり、その土地にしかない生活を生きること。それは、現代的な、都市的な、私を含めた大多数の人間が好むような生活から、はみ出たものとしてしか、彼らには理解することが出来ないのではないだろうか。
 そういった生活に、どういったよさがあるのか。私にも、しっかりとは分からない。
 しかし、そういったへき地での生活も、都市的な生活も、私の生活も、どれが正統でどれが邪道などと、決めつけることはできないはずなのだ。
 数の多い少ないで、正統性を与えられるなど、たまったものではない。
 多様なものは、多様に受け取るしかない訳だが、こういった論者の中に、多様性を正統からはみ出た逸脱と捉えている思考の在り方が、散見される気がするのだ。

 具体的にどういった判断がされるべきなのか。実際のところ、それは難しいものを多く含んでいる。結論として、集団移住というかたちに決まったとしても、それはそれで仕方がない部分もあるのかもしれない。

 しかしそれ以前に、前提とすべき考えがないがしろにされている気がしてならない。

 なし崩し的に話を進めようとするのなら、私は、そんな意見にのることは出来ない。


                            (了)

 


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