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我慢も要求もやり過ぎると良くないよねって話

 私が何をどう上手く伝えたところで、相手の考え方や染み付いた行動はそう簡単に変わらない。

 私が悩みに悩んだ末、前向きな意味でこう思えるようになったのは、ほんの数年前のことだ。
 そこから大変に生きやすくなったので、特に近しい関係における対人関係が上手くいかないという方にご一読いただきたいと思い、筆を走らせている。
 専門家でもなんでもない一個人の考えではあるけれど、同じ悩みを抱えた方へ、少しでも私の経験が役立ちますように。

 私も含めて人間というのは相応の年数を「自分」として生きている。その中で培った「普通」が各々にあって、無意識にその「普通」に沿って生活している。

 たとえば、朝ごはんを毎日欠かさず食べるのが「普通」の人と、朝ごはんどころか昼ごはんも食べず、食事は夜だけ摂るのが「普通」の人。

 たとえば、登校前は二時間かけてメイクやヘアアレンジをするのが「普通」の人と、家を出るギリギリまで寝ていて、寝癖もそのままに登校するのが「普通」の人。

 それぞれの例における前者と後者は恐らく、お互いのそんなルーティンについて知らされた時、相手の行動を異様なものとして認識するだろう。

  朝食の件の前者は「食事を抜いたら腹が減るし目眩はするし、パフォーマンスが下がるだろうに、なんでそんなことができるんだ?」と感じ、後者は「朝ごはんなんてよく食べられるな。俺なら通勤電車で気持ちが悪くなって、仕事どころじゃなくなるよ」と考えるかもしれない。

 メイクの件の前者は「すっぴんで外出なんてありえないし、寝癖ついたままなんて恥ずかしくて何も手につかないんだけど」と眉根を寄せるかもしれないし、後者は「貴重な睡眠時間を二時間も削ってメイクするなんて信じられない……。私の寝癖なんて誰も見てないから大丈夫だし」と嘆息するかもしれない。

 こんな時、過去の私は相手を自分の「普通」に引きずり込もうと必死になるか、あるいは相手の「普通」こそが正義と決めつけ、自分の価値観を歪めてしまうかのどちらかであった。 

 前者では相手の「普通」、すなわち相手がこれまで積み重ねてきた経験を否定するような形になり、結果として関係性を壊す……とまでは行かないまでも、少なくとも「しつこいやつ」または「押し付けがましいやつ」になってしまっていた気がする。
 また後者では、それを繰り返すうちに「自分」というものを見失ってしまい、「私には何も無い……」などと、精神的に追い込まれたりもした。今思えば、追い込んだのは自分なのだけれど。

 健康面や寝ぼけたまま外出する危険性などは主題から逸れるので置いておくとして、先程例示したような「普通」は、他人から「変えろ!」と突然言われて、簡単に変えられるものではない。
 それがたとえ自分からしたら許せないような行動だったとしても、既に相手の生活には染み付いてしまっているのだから。

 私はそのことに気づくまで、かなりの年月を費やしてしまった。もう少し早く気づけていたら、遠くなってしまったあの友人やあの知人とも、お互いの「普通」を出し合って折衝することが出来たかもしれないのに……。

 さて、いま折衝という言葉が出たように、私は決して「相手は変わらないから不快なことも我慢しろ」と言いたいわけではない。
 「相手は変わらない」という前提で相手の不愉快な言動を見ることよって、その後どうすべきかが見えてくると思うのだ。

 たとえば相手の嫌な言動が自分の「普通」からほんの二、三歩はみ出している場合、自分の「普通」まで相手を一方的に歩かせるのではなく、またこちらだけが歯を食いしばって我慢するのでもなく、お互いが一、二 歩ずつ歩み寄れば、互いに少ない負担で解決するかもしれない。

 たとえば相手の嫌な言動が自分の「普通」とは対極に位置しておりどうにもならない場合、できる限りその相手から距離を置くことで、自分の身を守ることも出来るだろう。 

 これは自分にも相手にも言えることだが、そもそも法に触れたり過度にインモラルなことでもしていない限り、変わる必要なんてものはない。
 ただ、自分の「普通」から逸脱した不快な行動をとることのある相手とそれでも良好な関係を築きたいと思うのであれば、歩み寄る努力をしてみたり、相手にも少し変化を望んでみたりするのがいいのかな、と、今の私は考えていたりする。
 こう考えるようになってからというもの、人間関係の幅が広がったように思うので、私がいつか迷った時の覚書がてら、お裾分けさせていただいた次第だ。

 ここまで話してきたが、相手が自身の子供や後輩、部下である場合には、「相手は変わらない」などと言い訳をせずきちんと教育しろ、という話になってくるだろう。
 あくまで対等な間柄、もしくは多少目上の同僚、先輩等との関係において、かつ私個人の意見として受け取っていただければ幸いだ。

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