気づいたらヤバめなオンラインサロンに在籍してた話
現在、私は完全在宅ワークの仕事に就いている。内容は伏せるが、ごく一般的なアルバイトといったところだ。
好きな時間に働ける環境には満足しているし、無事稼ぐことも出来ている。
けれどここに落ち着くまでの間に一度、気づかない内に何やらきな臭い企業へ所属しかける、という恐怖体験をした。カルトじみた団体から精神的に追い詰められかけた上、危うく金銭的にも大損を被るところだったので、自戒も兼ねてこちらで共有したいと思う。
どうか「自分は騙されない」「そんなところに近寄るのが悪い」と一蹴する前にご一読頂きたい。恐らく無駄な時間は取らせないので。
オンラインで完結する仕事を探し始めたのには2つ理由がある。
ひとつは夫に転勤があること。
もうひとつは私自身の体があまり強くないこと。
転勤の度にアルバイトを変えるのは正直しんどいし、突然体調を崩すことの多い私にシフト制の仕事は向いていない。よって、多少体調が悪くとも自宅でパソコンにさえ向かえればできるような在宅ワークを探し始めたのだった。
求人情報サイトで毎日欠かさず検索をし、履歴書を送り、面接を受け、約一ヶ月。
全滅だった。全然採用されない。
完全在宅ワークは国内どこでも勤務可能という特性を持つ。つまり、全国から有能な人材がどんどん応募しているのだ。ごくごく一般的な能力値かつひ弱な私など、そう易々と選ばれるはずがなかった。
しかし、諦める訳にはいかない。働かざる者食うべからず。
そうして精神をすり減らしながら仕事をさがしていたところ、事務員を募集していたとある企業から一風変わった不採用通知が届いた。
微糖さんが応募した業務については不採用となりましたが、履歴書の内容及び面接の結果を鑑みるに、弊社他部署の業務に向いているかと思います。
担当者が異なりますので、もし希望されるのであればそちらへお繋ぎし、再度面接を受けていただくことが可能ですが、いかがなさいますか?
かなり簡略化したが、上記のような内容だった。仕事が決まらず悩んでいたため、このお話はとても魅力的だった。
当該企業が他部署からも募集をかけていることは求人情報サイトにて知っていたので、「ちょっと苦手そうな業務だけど、がんばってみようかな!」と気合を入れたわけである。
「お願いします」と連絡を入れたところ、次の日に担当者からメールが入った。いついつ面接をしましょう、とスケジュールが決まり、一次面接、二次面接と無事に通過。
ほっとした。よし、これで働き先が決まった。
では弊社で働いていただく前に、オリエンテーションでビデオを見ていただきます。
企業理念のようなものや、意識の高そうな先輩方の体験談などをひとしきり見せられた。
これは他のアルバイトでも見せられた経験があるし、特に何も違和感は持たなかった。
弊社では一ヶ月ほどモニター期間を設けています。
この期間に仕事内容をご確認いただき、弊社にて働くか否か、最終判断をしてください。
感じのいい担当者さんにそう言われ、ちゃんとしてるなあ、と思った。一ヶ月もかけて研修し、説明してくれるなら安心だ、とも。
それが間違いだった。
この一ヶ月は今思うに恐らく、「知るため」の期間ではなく「教え込むため」の期間だ。
私自身は丸々一ヶ月そこにいたわけではないけれど、このモニター期間にやれセミナーだ親睦会だ勉強会だと、昼夜を問わず咀嚼しきれないほどたくさんの情報を流し込まれた。
夜間にセミナーがあったりもして、特に夫にはたくさん心配をかけてしまった。
そのセミナーとやらの内容だが、現状について「勿体ない」「そのままだと破滅する未来が見えている」と偉い人たちが不安を煽るところから始まり、「うちのトップはこんなにも稼いでいるすごい人だから絶対についていくべきです^^」「弊社で一緒に学んで一緒に成功を掴みましょう^^」とアルカイックスマイルを浮かべる平社員の先輩方が、どんどん距離を詰めてくる。
事ある毎に「今日は何をする予定ですか^^?」「ご主人はどんな方なんですか^^?」「ご両親はどちらにお住まいで^^?」とこちらのプライベートにまで土足で踏み込んでくる始末。もちろん、このあたりは回答を濁したけれど。
こんな調子で朝から晩までひっきりなしにLINEやらメールやらの通知が来るので、この辺りで精神的に参ってきて、同時にこれはまずいという危機感を覚えた。
褒められた趣味ではないかもしれないけれど、カルトだったりマルチだったり、そういう「触れてはならない」ものについて調べるのが好きなのだ。……こういう洗脳方法、私ゆっくり解説動画で沢山見た。
冷静な自分が「もうそこ辞めろ」と説得してくるにもかかわらず当時の私は、必死になって探した仕事にようやくありつけたのだから……という気持ちが邪魔をして、しばらくその環境を離れられないでいた。
いくつか他の仕事の面接を受けてはいたのだけれど、結果がなかなか出なかったのである。
しかし、グズグズしていた私にも、ついに決定的なタイミングが訪れる。
微糖さんはとても前向きで積極的な姿勢を見せてくださるので、今月でこちらのサロンを卒業出来そうですね^^
来月からは正式に弊社へ採用し、重要なお仕事をお任せしたいと思います^^
つきましては○○万円を弊社にお支払いいただいて、こちらのポータルサイトに会員登録をしてください^^
こちらの会費に関しましては、微糖さんがきちんとがんばってくだされば○ヶ月で取り戻せる金額になってますので分割払いは不可です^^
お仕事は簡単! 弊社に興味のある方を探して、面接まで連れてきていただければOK^^
私たちと一緒に有意義な学びのあるお仕事をしましょう^^
あ、そういう、ね?
って言うか私、サロンの一員として数えられてたのか……聞いてないぞ?
寝耳に水の内容を含むこんなメールを先輩から受信した時には、ありがたいことに今のお仕事から内定をいただいていた。
よって、こちらをカモにせんと舌なめずりする集団にもう一切の未練はない。
ここ数週間サロンにて学ばせていただいて、とても残念なのですが私、御社で働けるだけの体力が無いということが分かりました^^
短い間ですがお世話になりました^^
実際のところはもう少し申し訳なさそうな文章にしたけれども、まあとにかくこんな風な内容で、正式な採用は丁重にお断りした。
引き止めに次ぐ引き止めにはあったけれど、知りうる拒否と建前の語彙を放出しきって、「いいえそちらでは働けません」とつっぱねた。
そんなこんなで彼らも被害者なのであろう先輩方とは、最終的に穏便な別れ方をすることができたように思う。きちんとした手順を踏んでLINEグループを退会してからは特に何の連絡もないし、諦めてくれたようだ。
これについては日本語をちゃんと勉強してきて良かった。文系も捨てたものではない。
それにしても、どこか遠くの話だと思っていたカルトじみた企業なんてものがまさか大手求人情報サイト経由で距離を詰めてくるとは思わなかった。これが「自分は大丈夫」という慢心だったのだろう。今は反省している。
たかだか数週間の経験だったけれど、これまでの人生を遠まわしに否定するような発言を日々繰り返し受け続けては精神的にかなり疲弊した。突然涙が出てきたり無性にイライラしたりと、家族には特に迷惑をかけてしまったように思う。
なので上層部に不安を煽られた結果「絶対成功できます^^」と謳う企業にすがり、マインドコントロールされ、ああなってしまった先輩方の気持ちもわからないではない。
もう完全に赤の他人だけれど、どうか早いうちに彼らが己を見つめ直せるタイミングが訪れますように。
なんにせよ怪しげな集団には近寄らないのが一番いい。けれどそういう人たちは善人の顔をしてそこらじゅうを歩いているわけなので、付き合う前から見抜くのはとても難しい。
なので、せめて付き合い出した相手の様子が少しでもおかしいと感じたらすぐに離れることをおすすめしたい。私が無駄なダメージを負うことになった数週間を反面教師として。
最後に。
今回の件においては、まともな教育を施してくれた親類、寄り添ってくれた夫、逃げんとする私にアドバイスをくれた友人たち、これまで見てきたテレビ番組やゆっくり解説動画のどれが欠けても、私はかの企業に言われるがままお金を払ってしまったかもしれない。
良識的な身内に心から感謝しつつ、今回の失敗を今後の教訓にしていきたい。