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文学部生の就活

数年前、就職活動をしていた。

女子就活生の例に漏れず、全身真っ黒の魔女みたいな格好でーー黒いスーツを着、黒い靴を履いて、黒い鞄を持ち、黒い髪をひとつに束ねて。

好きでもない服装を強いられて少し悲しい気持ちになったが、幸いなことに、私には黒がよく似合った。私はブルベ冬なのだ。母親にも以前「おまえは喪服がいちばん似合うね」と大変温かい言葉をもらったことがある。

そんな悲しみのブルベ冬は、内定を獲得するために都内のいろいろなオフィス街を毎日うろついていた。

私は面接が結構得意なほうだ。面接になると自分の中のモードが切り替わり、はきはきとしゃべれるようになる。相手の発言の意図を汲み取って適切な回答をすることも苦手ではない。

グループディスカッションも好きだった。いろいろな人に出会えるのは楽しいし、みんなで何かを話し合うのも面白い。無理せず自然に取り組めていたと思う。

しかし私には大きな弱点がふたつあった。

ひとつは適性検査ができないことだ。能力検査も、性格検査も、たぶんボロボロだった。

能力検査は頭が悪いの一言で説明できるけれど、性格検査ができないとは何事かと思われるだろう。

性格検査では、一貫した回答をしないと評価が下がってしまうらしい。たとえば、「自分はあきらめが早い性格だ」という質問にも「自分には忍耐力がある」にも「はい」と答えると、回答が矛盾するため、嘘だと判定されるという仕組みだ。

私はこれがとても苦手だった。いろいろと考え込んでしまい、結果としてめちゃくちゃな回答になってしまっていたようだった。

たとえば、「自分の子どもにはどちらになってほしいか」、選択肢Aは賢い子、Bは優しい子という設問があった。

これにはとても困惑した。私にとって、賢いことと優しいことはほとんど同義だったからだ。

賢さは、自分の外側にあるいろいろなことを知ろうとし、学ぶ努力を積み重ねて得られる結果だと思う。

他者や他者を取り巻く物事を知ろうとすることは、優しさ以外のなんであろうか。

うーん……じゃあBの優しい子で。

そして数十問先の似たような問題で、今度は「賢さ」を選んでしまい、嘘つきと認定されるのである。

もし面接で聞かれたら、回答の根拠となる自分の価値観をしっかり話せる自信がある。でも適性検査の結果が悪ければそもそも面接に呼ばれることはない。

もう一つの弱点は、これは本当に致命的なのだけど、会社員になりたいと思えなかったことだ。

説明会に行くと毎回「へえ、つまらなそうだな」と思った。話を聞くのは面白いけど、自分が一社員として働くとなると、別に楽しそうだとは思えなかった。

そんなわけで、最終的には適性検査がない企業に就職した。幸運なことに、社風は結構合っていたと思う。

この経験を通じて、適性検査が悪いわけでも私がダメな人間だからでもなく、ただただ「合わないんだな」と思った。

話を聞くと、私みたいなタイプは文学部に多い。文学部就職困難説は、文学部だから企業に敬遠されるというのではなく、実は学生の性質から来ているのだろう。

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