灯明34(創作中編小説)

 それじゃあ、と言いかけたジズにレウムは首を横に振って見せた。
 「言いたいことはわかるが、その判断を下すには早計だ。空気が循環していることとロウアメが無事であることは別の話だから」
 それに、と続けて彼はジズから視線を外した。
 「お前たちがいくら行きたがっても、神父が承知しないだろ?」
 ぐったりしていたエレオスは顔だけあげて、有無を言わせない視線をこちらに向けてくる。絶対転移魔法は使わないぞ、と言いたげなこの上なく不機嫌そうな表情をこしらえて。
 「頼むから少し休ませろ」
 「全く、本当に体力ないんだから。しょうがないなぁ…」
 「魔法を使ってないお前に言われたくねぇな」
 エレオスはまだブツブツ言っていたが、途中から話に入ってきたヴェーチェルはニコニコとしている。いい加減にしろ、と怒る元気も今の彼にはないらしく、そのまま盛大なため息をついて押し黙った。
 「あ、そうだ。そろそろ定期連絡しないと」
 話をそらそうとしたわけではないが、ふと思い至って口にするジズ。
 地上には昼夜というものがあるというが、地下空間には当然存在しない。そのためか、彼らの時間に対する感覚は極端ににぶかった。皮肉かな、短命な民でありながら時間の経過には無頓着なのである。否、わざと目を向けないようにしているのか。いずれにせよ、そんな民の中で時間に対して比較的敏感な存在がこのジズであった。
 「あ、もうそんなに経った?」
 「少なくとも探索出て二日は経ってるかな。フィリオに連絡入れたのが図書館に来てからでしょ。その時点で多分一日ぐらい経ってたはずだよ。そこから仮眠はさみながら調査して。大体だけど、半日と、もう少し経ってると思う」
 だからかな、さすがに眠いよ、と続ける。
 「では、私は食事の仕度でもしてくるとしよう。腹も減っただろう?」
 レウムも疲れきった表情である。これは相当こきをつかわれたようでなんだかかわいそうな気がしてきた。
 「ねぇ、ヴェーツ。定期連絡なんだけど、任せていい?レウムも疲れてるみたいだから倒れそうで心配だし」
 さりげなく、エレオスの疲労については置いておく。
 「そうだね。食事の仕度なら一番手際いいのもジズだし、お願いするよ」
 「わかった。じゃあいこっか。上に戻るんだよね?」
 「あぁ、食材の収穫もしたいから助かる」
 とってつけたように告げられた言葉は正直解せないが、まあヴェーチェルの行動を知っていて止めなかった負い目もある。ここはおとなしく従うとしよう。
 
 さて、ジズとレウムを見送ったヴェーチェルは例の魔法具を取り出してフィリオにつなぐ。フィリオは待ちわびたとでも言いたげにすぐにその通信に応じる。
 《遅かったですね、ヴェーチェル》
 「あはは、つい熱が入ってしまって。面目ない」
 《……まあいいでしょう。それで?進展はありましたか?》
 その問いにヴェーチェルは居住まいを正して応える。
 「ええ、結論から言えば、灯明に似たもの ーもしくは灯明そのものを再現することは可能です」
 《はい、貴方の優れた知があればその結論に至ることは予想の範疇です》
 「じゃあ、この先に言いたいことも、もうお分かりで?」
 《もちろん、かつての灯明のサンプルを持ち帰る必要はありません》
 「……ふぅん?」
 《わかっていて送り出したのですよ、君たちをね。期待通りの働きをご苦労様です。さて、今後さらなる成果を期待するとしましょうか》
 ーー灯明の仕組み、作り方、問題点を理解した上で、それらの全てを解決できる新しい灯りを生み出し、必ずやコバルティアに持ち帰りなさい。
 
 
 
 
 

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