もみの木

 石畳の街は、いつになく余所余所しい顔をしていた。

 今年の秋から冬を語るなら、きっとそんな言葉がいいだろう。気温が下がるにつれて、猛威をふるう疫病に confinement(監禁) と言われる外出を禁じた政策を取った、その開始直前にはこの国や地域が抱えてた問題の一つが膨らんでテロという形で人を殺した。

 毎日、人が死ぬ事。それが数値として目に見える寒さと、過激な殺人や暴力、思想そんなものに晒される日常に、重く暗い冬がやってくる。今年はノエルという楽しみもそこまでないだろう。なんて予測が冷たい石の街をさらに冷たく見せている。

 冬は欧州の伝承を見るに死の匂いが濃い季節だと思う。だから、神の子の生誕祭が一番暗い冬至の後に設定されている。街を明かりで満たして、冬でも枯れないもみの木を飾り、死の気配を払おうとしている。

 待降節を待たずに少しずつ、街に明かりが灯り出す。やっと、ノエルが来るのかと実感が湧く。

 初めて此処で迎えた冬よりも、余所余所しい街が少しだけ微笑んでくれた気がした。

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