見出し画像

インソムニア(文月)

 ── 苦しさなんてもう感じないように
夢見てたあの日に還るように

記念すべきSoirée初作品となった楽曲。エレピや打ち込みのリズム隊など電子的なトラックにJ-POP的メロディとギターフレーズが乗っかった、何とも不思議なサウンドが特徴と言えると思います。

僕にとっては苦難の人生初作曲作品でもあるこの曲について、制作のエピソード当時のデモを混じえて色々お話していきます。よろしくお願いします!


着想

先述の通り、この曲はSoiréeで初めて制作することになった一曲。アーティストにとって第一作というのはやはり特別なモノなので、どういったジャンルの楽曲から発表するかは結成時から吟味していました。アップテンポな楽曲から出していくのも聴き馴染みがあって良いし、奇を衒ったサウンドでインパクトを狙うのも良いですよね。

結果としてはダウナーで大人しい、……言いようによっては比較的地味な曲を第一作として持ってくることになったのですが、Soiréeは元から明るくてノれる楽曲前向きな歌詞というより、憂いで包み込んでくれるモルヒネ的な楽曲(?)を目指して制作しているので、そのイメージはよく伝えられるスタートだったんじゃないかと思います。

ところで。既に察してくれている方も多いかもしれませんが、現時点でSoiréeで発表している二つの曲は、実は歌詞の世界観が繋がっているんです。このコンセプトはまだ終わっておらず、今後あと数曲掛けて紡いでいくストーリー(という程の代物でもないけれど。笑)が存在しているので、今回の記事では歌詞の面はひとまず置いておき、楽曲構成やサウンドに関することを中心に、この曲を紐解いていこうと思います!

サウンド面

これも冒頭で少し書いたことですが、この曲は打ち込みの洋楽的トラックにJ-POP的な歌メロやギターを乗っけた、何とも変わったサウンドをしています。

この言い方だと邦←→洋という視点での対比が目立ちますが、僕の中ではこの曲のサウンドイメージは少し違うところにあって、個人的には電子的で無機質なトラック←→生の人間味ある歌とギターという対比構造にかなり重きを置いたつもりでいます。人気のない夜明け前の街を彷徨うMVも、このイメージに近いのでは。

何故そういったサウンドイメージを打ち出したのか、細かい経緯まではしっかりと覚えていないのですが、結果としてこの曲はマオさんの歌と僕のギター以外全てのトラックが打ち込みで完結しているので、音楽ユニットSoiréeの一曲目として、二人の音で完結する曲を持ってきたかったというのはあったと思います。

最初のデモ制作に取り掛かったのは今年の三月のこと、当時買ったばかりの鍵盤でコード進行の草案を決めて、それをいつもお世話になっている亀山さんというアレンジャーのところに持っていきました。

その時に出来たトラックがこれ↓

コード進行しかない段階で作ったトラックなのでメロディはまだ乗っていないけど、概ねのサウンドイメージは既に確立されているように聴こえますね。全体的にはコードアレンジや音色の選択など、完成品より明るめな気もしますが。

メロディ作り

この曲のサビのコード進行は 
Ⅳ→Ⅲ→Ⅵm→Ⅴm→Ⅰ
と進む、いわゆる「丸サ進行」。
比較的手軽にオシャレな雰囲気を演出できるのもあり、近年のJ-POPでは完全にトレンドとなっている感じのあるコード進行です。

メロディを乗せやすい進行だから草案となる曲はいくつも書けていたのですが、反面ありきたりなものが生まれやすいのもトレンドに乗っかる弊害で。この問題を解決できるサビメロを作るのに、かなり苦労した覚えがあります。

それを受けて打ち出した策はこの通り。

  1. 進行の尺を倍の回しにした

  2. 音階の幅(インターバル)を広くとった

1はそのまま、一般的に二小節を使って一巡することの多いこの進行を、倍の四小節かけて一巡する回しに変えました。やっていることは全くもって大したことではないですが、これだけでも聴き手が受ける印象は大きく変わるはず。(具体的には、詞を詰め込むようなメロディが乗ることの多いこの進行を、倍の回しにすることで、伸びやかでメロディアスなイメージにズラす狙いがありました。)

2も1の延長線上にある作戦で、メロディアスを打ち出すために、音程が大きく飛ぶ箇所を作りました。
「一人浮んでいる」や「夜明けの空にえる」のところがそう。前の音に対してまんま一オクターブ上がるという中々な大移動。おそらくマオさんは結構大変だと思うけど、ココはこの曲のミソなので、どうか許してもらえたら有難いです。笑

結果的にできたメロディは寂しさや儚さを強く出しつつも美しいものにできた気がしていて、難産の甲斐があったと強く感じています!

構成

サウンドやメロディに加えて、楽曲構成も中々に変わっているこの曲。一般的にAメロ、Bメロ、サビ、Cメロ…… など四種類程度であることの多いメロディーラインが、この曲ではA、B、サビ、C、2B、Dとなんと六種類も存在しています。一番と二番でBメロは全く異なるし、サビは二回しか出てこないし、挙句ラストは完全に新しいDメロが出てきてそのまま幕を閉じるという、随分変わった流れ。おそらくこの曲の終わり方には初見多くの人が驚いたのでは。笑

この中で唯一、最後に新規のメロディが出てきてそのまま幕を閉じるという点だけは、制作を始めた時から決めていた大きなコンセプトでした。取り留めもなく散っていくような様を上手く演出できたと思うのですが、いかがでしょうか……。笑

ボーカルパート入れ

ここまで二ヶ月ほど掛けて何とかメロディの土台や構成を決定、やっとのことでマオさんを招集してボーカルレコーディングを行ったのが六月の頭でした。

曲が完成していない段階からレコーディングの日程を決めていたので、逆算して間に合うように制作をする意識が生まれたのは良かったのですが、それでもかなりギリギリだったため、前日にファミリーレストランで五時間粘って歌詞を書き切ったり、制作が間に合わずレコーディングの最中に急遽書いたメロディが存在していたり。笑  バタバタどころの騒ぎではない行程で、相変わらずマオさんには大変な思いをさせました。(すみません←)

ボーカルダビングは音取りをした流れでそのまま同日に行い、ある程度長丁場になったとはいえ、全体的な流れで見れば結構すんなり終了したように思います。マオさん曰くこの曲での歌い方は彼女にとっての「素の歌い方」だそうですが、素でこれだけの色香が出せるなら大したことですね。笑(本人は無個性ボーカリストを自称していますが……笑)

この曲の制作では僕の仮歌は録らなかったので、詞の譜割りなどは全てマオさんに委ねることにしました。個人的にボーカルワークで好きなところは以下。

  • 1B 「あの夢を見てみたい」の声の伸ばし方

  • 1B「偽りの景色ばかり」→1サビ「色褪せた…」までを一息で繋ぐメロディライン

  • 高音多めのサビの後、1D「小さな」で初めて顔を出す綺麗な低音

  • 2B「苦しさなんて…」→「あの日に還るように」の声の張り方

  • 1サビ「まるでメランコリー」に対してラスサビ「雨に濡れながら」が食い気味な譜割りになっているところ(メロディ自体は同じ)

僕にとっては他人事なのでついつい褒めてしまいますが。笑  どこもこだわり所なので、よければチェックしてみてください!

ギターアレンジ

現状僕はSoiréeの曲作りのほぼ全工程を鍵盤で行っていて、作曲段階でギターを持ち出すことはほぼありません。よって最後に実際のギターフレーズを考えるところで初めてギターを構えるのですが、この曲のギターアレンジは、良くも悪くもその方式が色濃く出たものだったなぁと今になって思います。笑 

世の音楽家たちがこの曲のようなトラックを作ったとき、アコギのストロークならまだしも、ベタベタのペンタトニックのエレキフレーズを入れようなどと思う者はおそらくかなり稀なのではないでしょうか。鍵盤主体の楽曲として伴奏は終始エレピが担っているし、リズム隊もリズムマシン的なサウンドに徹しているので、ギター入れはしづらいトラックであると言えます。

とはいえ僕はSoiréeではあくまでギタリストだから、「じゃあもうギターはアコギのバッキングだけにしましょう!」なんて訳にもいかないので。笑  アコギのバッキングはやはり入れた上で、エレキギターは色々考えて各パートごとにかなり色の異なるフレーズを入れていきました。

歌唱パート

まずサビでは伴奏を完全に放棄して、ハイポジションでの単音リフ的なフレーズを弾いています。跳ねたリズムか中々難しいのですが、その独特な浮遊感がサビの雰囲気の演出になっているのでは。続くCメロでも、L,Rそれぞれで二本のリードをハモらせたりして、上物に徹するフレージングのままで。

続く2Aでは打って変わって、アコギと共に伴奏へ。クリーントーンのアルペジオで、コードの音を埋めていく立ち回り。完成音源では少し分かりづらいですが、ここのエレキギターのサウンド、コーラスを分厚めに掛けたクリーントーンが凄く綺麗でお気に入りです。

一番がここまで音数少なめで来たところ、二番に入って一気に音の広がりができる感じは、この曲の中でも特に好きなポイントです!

ギターソロ

終始ハイゲインサウンドやギター的なフレージングを極力避けてアプローチしたこの曲、その例外がギターソロ。唐突なゲイン全開のファズトーンで、狂ったような早弾きのフレーズを弾いています。(基本トレモロピッキングなので実は見かけほど難しくないのはここだけの話。笑)

元々の想定ではサビでやっていた単音リフの延長のようなソロを入れるつもりでいたのですが、「ファズで弾き倒してみたらいいじゃん!」という提案をしてくれたのはアレンジャーの亀山さん。普段あまりやらないアプローチだったのでフレージングは結構悩みましたが、裏を返せば、彼が提案してくれない限り僕には絶対辿り着けなかった発想だったとも思うので、ここはもうただ感謝だなと。全体的に諦めのムードが漂うこの曲で、内に秘めた大きな感情の昂りといったテーマを程よく表せたセクションだと思います。ライブではあまり演りたくないフレーズですが…………。笑

このように、僕にとっての十八番的なフレーズや、いかにもギターらしい音使いといったものを避けているのがこの曲のギターアレンジの一番大きな特徴。(その反動か、次作の「Timeless」はかなりギター全開なアレンジになったのですが。笑)

曲作りそのものが初体験だったのに加えてこの辺りも勉強になることの多い作業だったので、頭を抱えながらも楽しく録っていたのを覚えています。感覚では生まれないフレーズを、知識を使って絞り出す感覚。ムズムズするけれど、いいモノをアウトプットできた時の感覚は格別。

まとめ

この通り、制作に時間が掛かった分色々な要素に拘りを散りばめたこの曲。特徴的なカラーなので万人受けしないかもですが、僕にとってはとても大事なSoiréeの第一作。眠れない夜に布団の中で聴いて欲しいチューン代表だと思っています。思い立ったらぜひ!!

(22.10.22 文月兎)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?