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農学研究者からみた天穂のサクナヒメ農業パート

最初に書いておきますが、おすすめです。
興味ある方なら一度やってみてください。

先日、様々な方面から話題になっていたゲーム「天穂のサクナヒメ」をクリアしました。
Twitchで配信も不慣れながらもして、ラストの部分を配信したらゲーム音入ってなくて、最後だけもう一度やり直したりしました。

ストーリーについての感想は色々な方面で語られているので、サクナヒメの農業パートについて一農学者の視点で取り止めもなく書いていきたいと思います。

連作が可能な水田という技術の叡智

サクナヒメでは毎年同じ場所で、稲を連作しています。
畑の場合、こういったことは不可能です。それは連作障害というものが起こるためです。

畑ではこれを防ぐために科の異なる作物種に切り替えて植えたり(輪作)、土壌消毒などの対策を行います。

しかし、水田は、畑と異なり一年を通じて水が大量に入っていたり、中干しや収穫ごろには水が無くなったり、大きな水の動きがあります。
そのため連作障害の問題となる病害が発生しづらくなります。

水田とは革命的な技術なのです。

何気ない部分なのですが、個人的には感動しました。

施肥

私の専門は土壌肥料ですが、あまり思いつきませんでした。ごめんなさい。
専門らしいことをかくと、現在の水田作では、穂肥(リン)根肥(カリウム)基肥として最初に必要なだけ入れます。
葉肥(窒素)は最初に基肥として半分ほど入れて、出穂前(正確には幼穂形成期ごろ)に追肥として残りを入れます。
出穂後の窒素施肥について、稲は出穂後に窒素をほとんど吸収しないので、実際にはムダです。出穂後の窒素施肥を「実肥(みごえ)」と言いますが、実際に行うと食味が下がります。

あと、サクナヒメでは「穂肥=リン」となっていますが、現在では「穂肥=追肥」と認識します。
なので、野生の土壌肥料研究者に、リンのつもりで「穂肥」の話をすると、話が噛み合いません。気をつけましょう。

雑草・病虫害

ここはかなり丁寧に作られています。

雑草について、昔は農薬がなかったために雑草防除に全作業労働時間のほとんどが割かれていたという話があります。

サクナ様は豊穣神なこともあり、超スピードで水田雑草を手取り除草してます。私はあのスピードで手取り除草はできません。なんなら時々転んでます。
ただその超スピードでも草はどんどん生えますから、雑草の凄さを実感できます。

また、サクナヒメでは、寒冷地の中山間地で稲作を行っています。
時代背景こみで考えると、こうした地域で最も恐ろしい病害は「いもち(稲熱)病」です。

病害が発生しやすい条件は主に「窒素と湿度が過多」であるという点です。
実際のサクナヒメでも、窒素過多で雨が多い年は病気にかかりやすい印象にあります。

虫害については、サクナヒメではよく「イネツトムシ」が1次から3次分げつごろによくでます。僕はサクナヒメプレイ中にこの虫を知りました。


発生条件はわからないですが、収穫間際に近年問題になっている「ウンカ」、お馴染みの「カメムシ」もでます。
こうした虫害は、家の内外にいるカエルクモを捕まえて水田に離したり、ゲーム中盤にでてくる合鴨農法で対策できます。
カエルもクモも実際の水田を見て回って歩いていると、どこそこにいます。
こういった対策にも関わらず、虫はでてきます。すごいですねほんと。

よって、雑草・病虫害部分はとてもリアルに作られており、機械や有用な農薬がなかった時代の大変さをリアルに体感できると思います。

水管理

田植え後、サクナヒメでは活着(植えた苗の根が定着すること)までの間の水管理は「浅水管理」を勧めています。
しかし、上記にも書いた通り、寒冷地で稲作を行っていますので、「深水管理」を行うのが一般的です。
その理由は主に「冷害」です。有名なのは1993年に起こった「東北の大冷夏」です

水は比熱が大きいために温度変化が小さく、深水で管理をすることで冷害の影響を小さくできます

もう一つ水管理で気になったのは、中干しです。

サクナヒメの時代設定において、中干しという技術はなかったのではないかと思います。
中干し自体がそもそも水を抜いたらきちんと乾く「乾田」でないと不可能です。
しかし、サクナヒメの時代は一年中水がはけない「湿田」が多かったと思います。湿田は簡単にいえば沼で、検索すると胸まで水田に浸かりながら田植えしている画像があります。
ここについては、現在の水田作を伝えるということで、中干しをすることを含めたのかと思っています。

三大NG 農法に関してのコメント

このゲームにおいては3大NG とされた農法があります。

「トライフォース農法・カルタゴ農法・ルイセンコ農法」

です。

まず、トライフォース農法というのは「葉肥・穂肥・根肥」を数値Maxまで投入する方法です。
施肥のやり方については、上述した通りです。
現在の農業において、トライフォース農業が必ずしも間違っているかというとそうでもありません。葉肥だけは気をつけろという感じです。
穂肥は、サクナヒメのように出穂前後とかのタイミングを考える必要はほとんどありません。水田は畑と異なり、慣行施肥すればリン欠乏がほとんど問題にならないからです。
根肥については、化学平衡でその量が調節されていますから、リン同様、基肥として撒いたらほとんど気にしません

次にカルタゴ農法というのは、雑草や病虫害防除のために塩を撒くというものです。
私もこれはNGだと思います。
ただ水田においては微妙なラインで、その理由は水田は水を常に入れており、水分の移動が畑作に比べて盛んであるためです。そのため、畑作よりも影響は小さい可能性があります。
しかし、それでも私個人としては、塩を土壌に散布することは全く推奨しません。

最後にルイセンコ農法とは、簡単にいえば冬に田植えをしてしまうことです。
これについてはその通りで、サクナヒメの舞台は寒冷地です。
寒冷地の田植えは、5月ごろが一般的かと思います。なのでサクナヒメの時間でいうと「春の2」ごろになると思います。
実際のサクナヒメでも、この辺りでの田植えを推奨しているので、寒冷地かなーとか考えてました。

サクナヒメの農業パートは本当にリアルなのか?

私にとって、サクナヒメの水稲作は「ファンタジー」と変わりません。
現在の水稲作はほぼすべて機械化され、かなり効率化されています。
さらに今の米作りは「直播(直接、水田に種を播種する)」で行う方も増えてきており、苗作りすら行わない方法も普及しています。
おそらく小さい頃にのみ稲作を体験した方々が、「サクナヒメの農業はリアルだ」という感想を抱いているのだと、私個人は思っています。

ただ、サクナヒメの農業は「昔の農業の大変さ」というのをリアルに伝えるゲームかと思います。
こうした大変な農業を、多くの技術開発で効率的にしてきたのが、農学研究です。
そのため、食を支える農業生産者および農学研究をご支援いただけますと幸いです。

最後に

いろいろ取り留めなく書きましたが、このような稲作ゲームが令和の時代に2020年という年に出るとは思いませんでした。
水田作を対象に研究している土壌肥料研究者として嬉しいゲームです。

個人的には、プレイ中に「土づくりはとても大切」という言葉を聞いて、報われた気持ちにもなりました。

現在、米の生産というのは大変厳しく、消費量がコロナのために例年よりも一層落ち込んでいるにもかかわらず、作況は例年通りで大幅な米余りの年となっています。

この「天穂のサクナヒメ」を通じて、食糧生産について考えてもらえると、農学研究者としては大変嬉しい限りです。

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