ソイ少年の記憶
子供の頃の思い出です。実家の二階の和室の小さな家具の上にフクロウの形をした陶器の笛がありました。
ぼてっとした太ったフクロウ、くちばしは黄色、目はプラスチックの目玉がクルクル回るものがくっつけてあったと記憶しています。
それを吹くとホーホーと実家の裏の神社の林から夜中に聞こえてくるフクロウの鳴き声と同じ音がします。
ソイ少年はそれを時々吹きます。音が聞きたいのではありません。
その笛を吹いているときに匂ってくる臭いに少年は引き付けられます。
どちらかと言えば、いい臭いです。
でも、その臭いがどうして臭うのか?何の臭いなのか?ずっとわかりませんでした。
その部屋にはもうひとつ音の出るものがありました。オルゴールです。着物を着た女性が踊ってる格好の人形が上にのっています。ハンドルをクルクル回すとどこか東北地方の民謡のようなメロディが流れます。
どことなく寂しいメロディです。
そのメロディがとても好きでハンドルをゆっくり回し、笛の臭いを嗅ぎ、止まりそうくらいにゆっくりなメロディを楽しんでいたのを覚えています。
木工の仕事を始めて、漆を使うようになりました。漆の溶剤にはテレピンを使います。テレピンとは松のチップから採れる精油で油絵の具などにも使います。
漆を塗って、それが乾いたものをナイフで削るとあの陶器のフクロウを吹いたときと同じ臭いがします!
フクロウの笛の塗料にテレピンが使われていたんでしょう。テレピンそのものの臭いともちょっと違います。顔料と混ざり、塗料として使われ、一度乾いたものの臭いです。
今、毎日のように漆を使います。削っては塗り、削っては塗る。その時匂うこの臭いが少年の頃の思い出と重なりました。
何十年も後にその臭いのするものを扱う仕事につくとは、ソイ少年のその臭いへの特別な嗜好?の記憶に偶然とは思えないものを感じてしまいます。
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