公共交通機関の企業努力
先日東京23区内のバスを利用した時にふと気がついたことがあります。
バスの前方が入口で、中央部分が出口になっています。
23区外や他県のバスって、中央部分が入口で、入場時に乗車地点を示す紙切れを受け取るか、ICカードに記録して、乗車距離に応じた料金を前方の出口で支払うって仕組みです。
一方、入口が前方の場合、距離に応じた運賃システムが使えないため、どれだけ長い距離を利用したとしても定額料金(210円)になります。
定額制は、距離別制に比べて売上が減るでしょう。それでも、どうして23区内のバスは前方入口方式にしたのか?
最大の理由は、乗降者時の混雑を避けるためでしょう。
人口も利用者も多い23区では、定額にして事前に小銭やICカードを用意してもらうことで、乗り降りをスムーズにする。
それに加えて、乗客の流れ方としても、中央が入口の場合は乗車客と降車客が社内でバッティングしやすいので、先頭を入口にすることでそれを緩和している。ということだと思います。
財政が豊かな23区だからできるという見方もありますが、利益よりも乗客の利便性を優先する公共交通機関の取り組みは、純粋に評価できることです。
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公共交通機関って、目に見える形でどんどん進化していくのが楽しいですね。
宗一郎が子どもだった頃は、まだ切符切りの駅員さんが存在してましたが、いつしか自動改札機になり、ICカードが登場し、そのカードは改札だけでなく、あらゆる店舗で使えるようになりました。
そのICカード、未だにほかのどの非接触決済よりも使い勝手がよいというのも驚くべきことです。
インバウンド対応についても、英語・中国語・韓国語表記はもちろん、路線図を色とアルファベットで視覚的に表現する工夫や外国語対応スタッフの配置などが進んでいます。
安全対策は、コストが大きくかかる各駅のエレベータやホームドアの設置の推進を着実に推進しています。
“自分たちは営利企業である前に、社会インフラを支える組織なんだ”という自負をひしひし感じます。
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コロナ禍は、鉄道会社にとって大ピンチだったに違いありません。首都圏通勤の電車利用率が85.2%という状況の中、テレワークが急速に浸透し、電車の利用客は激減しました。
一方で、宗一郎もテレワークを行っていましたが、特に小さい子どもがいる家庭にとって会社と同じように集中できる環境をつくるのはかなりの困難で、いざ作ろうとしてもコストやスペースの制約を理由に、断念する人も少なくない。
かといって、長時間かけて会社まで通勤をする必要性も薄れている。それが実態でした。
そんなジレンマを見逃さずに、ビジネスにつなげたのも鉄道会社でした。
駅というインフラを活かした駅ナカや提携ホテルでのレンタルオフィス、在来線での有料通勤特急による車内オフィス化などを推進。
また、ラッシュの時間帯を避けて通勤できる人や、出勤勤務と在宅勤務を組み合わせている人など、コロナ禍により新しく生まれた通勤パターンにも対応できるポイントサービスもすぐに導入しました。
鉄道会社がめざす姿がいまだに“鉄道利用客数の増加”であったなら、ピンチはピンチのままだったでしょう。
コロナ禍になってから、わずか1年半の間に、新しい価値を考え実行するスピード感には驚きです。たとえ公共交通機関が減っても、顧客を取り逃さない執念すら感じます。
最近発表された世界都市ランキングの“働き方の柔軟性”指標において、東京が41位から2位に急上昇する結果となりました。鉄道産業の寄与する部分は大きいでしょう。
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テレワークの浸透や少子高齢化により、鉄道の利用者は減少していくため、点と点を結ぶ線は細くなっていく。
その代わりに、点(駅)そのものを大きく、そして彩り豊かにしていく。
鉄道会社はもはや運輸業ではなく、駅を中心とした“生活圏創造企業”をめざしていくのでしょう。
鉄道会社にとって、顧客は、電車の利用客ではなく、駅を訪れるすべての人になります。
今後自動運転車がいくら普及しても、それは鉄道会社のライバルにはなりません。
むしろ郊外の大型ショッピングモールがシェアオフィスや保育所ビジネスに乗り出したら、鉄道会社にとっては脅威でしょう。
“産業の垣根がどんどん取り払われている”、鉄道会社のしたたかさをみると、改めてこの言葉を思わずにはいられません。
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