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詩『雲』

薄氷が張り詰める水底で
ぼくは今日も詩を詠みながらすごしていて
発した波紋をあぶくのように天に返しているが
霧散するためにほとんどが叶わないのだった

詩の定義は曖昧なうえにデリケートで
話し言葉であり歌であり文章であり
感情であり喩えであり遊びでもあるので
なにが正しいのかが皆目判らないでいる

それでも生きねばならないので
言葉を選びつつ選びつつ息をしていると
沈むビル群を銛で突き刺す稲妻を見た
紫陽花は珊瑚のように笑っていた

高みをゆく流氷はときにすべてを覆うので
息苦しくもなるが垣間見える青はまた格別で
辺り一面がソーダ水と化すのが悪くない
点滅を繰り返すうち日がすぎて季節はうつろう

薄氷が融けそうな水底で
ぼくは変わらず詩を詠んですごしている
天上は分け隔てなく常に水面を指して
底は深く空は高いと教えてくれるのだった


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