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心に寄り添う悪者

支援・療育を行う上で、私が絶対にブレることがない絶対的な芯として
【正すべきは本人ではなく行動】と
【社会として捉える】の2つがある。

今回はこのお話を。

まずは【正すべきは本人ではなく行動】という点から。
これは、科学的な話になる。

そもそも、機能分析として、人間が行動する動機は世界中のどこを探しても4つしかないという前提的な事実から説明させていただきたい。

1、注目が得られる
2、ものや活動が得られる
3、逃避・回避できる
4、感覚が得られる

これ以外の動機づけは今現在、世界中のどこを探してもない。

定型・自閉・ADHD・男女・若者・中年・年配・・・・全て問わず、全人類、行動の動機はこの4つしかない。
どんな行動も全て、この4つで説明ができるという事を、まず基本の知識として知っていただきたい。


では例を。

【守りたいのか、解決したいのか】の記事で軽く出した“繊細で傷つきやすいCさん”

Cさんの保護者が体験に来られた際に話してくださったCさんの状況は以下の通りである。

Cさんはよく
「私なんてどうせダメなんだ」
「生まれてこなければよかった」
「どうせ学校のみんなは私の事を嫌っている」
「私は一生落ちこぼれなんだ」
等、毎日毎日、自分を否定する言葉のフルコースを両親に訴えては泣いて、激しく落ち込むを繰り返している。

保護者も、Cさんの精神状態をひどく心配し、常に慰め励まし、学校と面談を繰り返したり、カウンセリングに行ってみたりと、できる限りの寄り添いを続けてきた。

そんなCさんの相談を保護者から受け、私がまず考える事はなにか。

(精神的に不安定な子だな)
(学校でいじめにあっているんじゃないか)
(きっとすごく傷ついているんだ)
(心に寄り添って前向きにしてあげたい)
(人生の楽しさを教えてあげたい)
なんて事は絶対に考えない。
そんな事はもっと後だ。

私がまず考える事は、前述した【行動の動機はなんなのか?】である。

動機→メリット(行動の結果)であるから、この行動によりCさんは何かしら得る事のできる結果があるのだ。

1の場合、Cさんは自己否定の言葉を羅列する事で、保護者、学校の担任、カウンセラーに自分を注目してみてもらえる。

2の場合、自己否定する事により慰めのおやつやご馳走、欲しいものを買ってもらえる。

3の場合、学校を休める。

4の場合、涙を流す感覚や、自己憐憫による陶酔した感覚を得られる

多分、こんな感じだろう。

ただ、これだけだとCさんの行動の全貌は、まだ半分しか解明されていない。

なので、保護者から、自己否定した後は家ではどういう対応をするのか、自己否定の言葉が出るのはどんな時なのか、発達検査の結果や学校の評価も合わせ、時間をかけて詳しくアセスメントする。

そして明らかになったのは、Cさんの自己否定の一番の動機は、3の学校を休めるだという結論に至った。

行動と結果が分かったら、次は起爆となる原因を探っていく。

Cさんは一体、学校の何から逃避・回避したかったのか。

これは教室内でのモニタリングで充分に探る事ができた。

Cさんは普通級に在籍しているが、勉強についていくのが難しく、内容の理解もかなり曖昧だった。
ただ、平均点にはとどかないものの、目立つほどの悪い成績でもなく、授業態度も真面目なので、Cさんの苦悩は周りに気づいてもらえなかったのだ。

そうと分かれば話が早い。

Cさんに合った内容・ペースの学習をすればいいのだ。

ここからは、また別の話になってくるので割愛させていただくが、このように紐解いていくと、
【繊細で傷つきやすいCさん】ではなく、
【勉強についていけていないCさん】だった事がわかる。

これは天と地ほどの差である。

Cさんの性格・個性として傷つきやすく繊細だから自己否定を繰り返すのではないという事実。

ここに気づく事ができないのであれば、支援するだけ無駄である。
むしろ、誤学習の促進になるので、支援者は速やかに撤退していただきたい。

寄り添い、受容するだけの支援が、いかに悪かがお分かりいただけただろうか。


Cさんはその後どうなったか。

Cさんには自己否定を正すアプローチと同時に、保護者と学習について話し合っていただき、結果、苦手な国語と算数の時間は個別級で自分に合った内容とペースで丁寧に学ぶ事となった。

元来真面目なCさんは、個別級での学習に対して真摯に取り組み、学習のつまづきを見事克服する事ができた。
この成功体験により、学習に向き合う姿勢も変わり、分からない事があれば積極的に質問をし、分からないままで終わらす事はなくなった。

今では、学習に対して前向きで自信に満ちたCさんである。


このように、正すべきは本人ではないのだ。
本人の性格=行動ではないという事。

行動には必ず理由があり、その理由は全て動機だという事実。

行動に着目し、知識をもって動機を探れば、自ずとその子の心が見えてくるのだ。

もし、Cさんの自己否定を、心の傷や本人の繊細さで片付けてしまった場合、Cさんは壁にぶつかる度に自己否定を繰り返し、その言葉はどんどん過激になり自身を洗脳させていき、最終的には自傷行為や他害行為に繋がっていっただろう。

私は、本当の意味で、心に寄り添う支援がしたいからこそ、この【正すべきは本人ではなく行動】の芯を貫き通している。


次回は、【社会として捉える】について。

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