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味覚過敏障害児だった食いしん坊

前回からの続き

本人と関わる人に【障害】といえる困り事があれば解決に向けて動く。
それが療育の基本だと私は考えている。

ただ、解決に導くためにはいくつか条件がある。
その一つが【保護者は問題解決に向けて施設から提示された対応をする】
これは必須条件となる。
ここに施設側と保護者側でのズレが生じると、問題は解決するどころかより一層悪化してしまうのだ。
もちろん対応できるか不安な保護者には、様々なシチュエーションを想定した対応を納得がいくまで何度でも説明をする。

こう聞くと物凄く厳しい提示をされ、家でも訓練をさせなくてはいけないのかと感じられてしまうのだが決してそうではない。

例えば、ダイエットをするためにジムに通ったとしたら、ジムでのトレーニング以外にも、おやつを抜いたり、3食のカロリー計算をしたりするだろう。
どれだけジムで頑張ってトレーニングをしていても、家ではおやつ食べ放題にカロリー過多の食事で痩せれるわけがないのだ。

ジム(施設)で有効なトレーニングを行い、家ではトレーニングした事が0にならないよう行動を合わせればいいだけだ。

療育でもこれと同じ事が言える。

実際に私の働く施設であった事として一つご紹介しよう。

前回の記事で軽く書かせていただいた、白米と特定のふりかけしか食べないAさんは、その後施設と契約し、職員全員で感覚過敏に着目したモニタリングを行った結果、味覚・食感においては特に過敏ではないとの結論に至った。
(なぜわかったのかはかなり長くなってしまうので割愛させていただく)

要するに経験不足からくる食わず嫌いだったのだ。

そうと分かれば話が早い。

私はAさんの保護者に昼食作りのプログラムには必ず参加してもらう事と、その前日の夕食と当日の朝食はいつもよりも少なめの量にする事をお願いした。

その日の昼食作りのメニューは生姜焼きとサラダとお味噌汁だ。

もちろんAさんが食べれるものは一つもない。

だが保護者にお願いした通り、前日夜から食事の量を少なめにしてもらってたので、Aさんはお腹がすいている。
(そのせいで来所まで泣いていたらしく、より一層お腹は空いている)

食べたいけど食べれるものがない。
お腹が空いてるのに食べれない。

そこで私はまず、大好きなふりかけご飯を乗せたスプーン12本と、昼食メニューの生姜焼きを細かくしたものを少量のせたスプーンを5本とそれよりも少し多めの中量をのせたものを5本用意した。

そしてまずは何も言わずにAさんにふりかけご飯をアーンさせてあげた。
次に、同じくふりかけご飯をアーンさせるふりをして少量の生姜焼きをアーンさせた。
「うえっ!」と吐き出しそうになる前に、すかさずふりかけご飯を口に入れた。
お腹がとても空いているので吐き出さない。
「おいしいね」と声をかける。

その後も生姜焼きを食べたらすぐにふりかけご飯、生姜焼きを食べたらふりかけご飯を繰り返し5本の少量スプーンを完食。
そのままの流れで中量スプーンに変え、8本目の生姜焼きの時に、私はあえて何も言わずに生姜焼きのスプーンを指差してみた。
すると、Aさんは自ら生姜焼きのスプーンを手にとり自分で食べた後、ふりかけご飯を食べたのだ。
声かけはほとんどしていない。

Aさんは、一連の行動から“生姜焼きを食べた後ふりかけご飯”を勝手に学んだのだ。
本当にとても素直で賢い子だ。

その後全ての生姜焼きを完食する事ができたので、最後のふりかけご飯は、Aさんの大好きな丸いひとくちおにぎりにしてあげた。

Aさんの場合、この子の特性や気質、普段の様子からこの方法を選んだので全ての子に当てはまるわけではないし、生姜焼きも10本中どこまで食べれるかのお試しもあったので、全て完食できたのには職員の方がとてつもなく驚いた。
(ちなみにこの方法は奥田健次先生の書籍に描かれていた方法を少しアレンジさせていただきました。)

この様子を動画に撮って保護者にみせた。
生姜焼きという味も匂いもあるものをパクパク食べる我が子の様子に目を丸くしながら大喜びをしてくれた。

この結果を見せたあと、私は保護者の方に、
「家での食事でも、このやり方で少量でいいので、スプーン5本分のおかずを食べるように対応してほしい」とお願いし、保護者が不安に思う点も全てアドバイスさせていただいた。

保護者の方にも対応の協力をいただけたので、家でも食べる経験をどんどん増やす事ができたAさん。
施設側の支援も成長に伴い手法を変化させていき、一年後のAさんは、トマトとナスだけは苦手だけど一口は頑張って食べれる元気な食いしん坊になった。

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