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世界でひとりの

姉が今日結婚式を挙げた

降ったり止んだりの不安定な空模様など
瞬きの間で忘れてしまえるくらいに
圧倒的な晴れの日だった

姉は大事なことはを全然言わない人だった

幼い頃の話で言うと
夏休み明けにぞうきんがいることを
夏休み最終日に言うような姉だった
ノートは最後のページになってから
ノートがもうないと言うような姉だった

結婚式のウェルカムボードを贈るのに
結婚式の5日前に寄越せというのを
10日前に言うような姉だった


プロポーズされたのを
5か月も私に黙っているような姉だった

私たちは薄情な姉妹だった

年2回、お互いの誕生日におめでとうと
ただメッセージを送り合う

ふたりとも実家にもなかなか帰らないで
最後に会ったのが何年前だったか思い出せない

どんな仕事をしているとか
最近どうしているのかとか
どんな大人になったとか

姉妹であるのに、何も知らなかった
一緒に育ってきたはずの姉のことは
とっくに旦那さんの方がよく知っているのだ

結婚なんて言う姉の一大事は
母から先に聞いてはいたけれど
直接言わないのだから
私もおめでとうなんて言ってやらなかった

私たちは薄情な姉妹ではなかった

年に1回しか連絡をくれないくせに

長野には一回も遊びに来てくれないくせに

プロポーズをされてから
5か月も私に黙っていたくせに

式でのお色直しのエスコート
大切な妹と一緒に歩きたい、なんていう
そんな司会の言葉に
悔しくも涙してしまった

いざそんなことを言われ前にする
ずっと薄情だと思っていた姉は
私の涙に泣いたのだった


姉が幸せなのが嬉しかったのか
姉に泣かされたのが悔しかったのか
姉を取られてしまうのが寂しかったのか
姉への愛に気づいてしまったからなのか
あの涙の説明は一生つかないけれど

一緒に泣いたあの瞬間に

姉妹であるということが
初めてはっきりとわかった気がした

祖父の言葉を思い出す
世界でたったふたりきりの姉妹なのだからと
それはどこに居ても変わらないのだからと

世界にたったひとりの姉が
今日結婚式を挙げた

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