世界でひとりの
姉が今日結婚式を挙げた
降ったり止んだりの不安定な空模様など
瞬きの間で忘れてしまえるくらいに
圧倒的な晴れの日だった
…
姉は大事なことはを全然言わない人だった
幼い頃の話で言うと
夏休み明けにぞうきんがいることを
夏休み最終日に言うような姉だった
ノートは最後のページになってから
ノートがもうないと言うような姉だった
結婚式のウェルカムボードを贈るのに
結婚式の5日前に寄越せというのを
10日前に言うような姉だった
プロポーズされたのを
5か月も私に黙っているような姉だった
…
私たちは薄情な姉妹だった
年2回、お互いの誕生日におめでとうと
ただメッセージを送り合う
ふたりとも実家にもなかなか帰らないで
最後に会ったのが何年前だったか思い出せない
どんな仕事をしているとか
最近どうしているのかとか
どんな大人になったとか
姉妹であるのに、何も知らなかった
一緒に育ってきたはずの姉のことは
とっくに旦那さんの方がよく知っているのだ
結婚なんて言う姉の一大事は
母から先に聞いてはいたけれど
直接言わないのだから
私もおめでとうなんて言ってやらなかった
…
私たちは薄情な姉妹ではなかった
年に1回しか連絡をくれないくせに
長野には一回も遊びに来てくれないくせに
プロポーズをされてから
5か月も私に黙っていたくせに
式でのお色直しのエスコート
大切な妹と一緒に歩きたい、なんていう
そんな司会の言葉に
悔しくも涙してしまった
いざそんなことを言われ前にする
ずっと薄情だと思っていた姉は
私の涙に泣いたのだった
姉が幸せなのが嬉しかったのか
姉に泣かされたのが悔しかったのか
姉を取られてしまうのが寂しかったのか
姉への愛に気づいてしまったからなのか
あの涙の説明は一生つかないけれど
一緒に泣いたあの瞬間に
姉妹であるということが
初めてはっきりとわかった気がした
…
祖父の言葉を思い出す
世界でたったふたりきりの姉妹なのだからと
それはどこに居ても変わらないのだからと
世界にたったひとりの姉が
今日結婚式を挙げた
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