雨降る【連続小説3日目】
月島に雨が降る。
外国人観光客客で賑わうもんじゃストリートも、昼時は外まで行列になるハンバーガーショップも閑散としている。
智は傘をさして歩く。イヤホンからは流行りのJーPOPが流れている。
就活も終わり、大学4年の秋。単位もほぼ取り切り、特にやることがない。周りはやれ合コンだ、最後の青春だと遊びまくっているが、本来1人でいることが好きな智はそんな気になれない。
「働き始めたら嫌でも人と一緒にいなきゃないんだろうな」
理系の大学に進み、一時は大学院進学も考えたが学力に自信がなく、すっぱり諦めた。4月からは某IT企業への就職が決まっている。
智は雨が好きだ。なぜかはわからない。
雨の日は無性に歩きたくなる。
向こうから黄色い傘の人が歩いてくる。傘で隠れて男性なのか女性なのかはわからない。年代も。
すれ違いざま、少し目を向ける。女性、、のようだがパーカーのフードも被っていたらのでよくわからない。
「よっぽど濡れたくないんだろうな」
傘にフードの人を見てなんとなく思う。
また前から今度は赤い傘の人が小走りで向かってくる。どうやら急いでいるらしく、走りながら腕時計を見ている。ベージュのトレンチコートは下が濡れて黒くなっている。
黄色い傘に赤い傘。
傘の下に表情がある。髪を濡らしたくないからフードをかぶる人、急いで腕時計を見ながら走る人。傘はプライベートな空間を作る。周りから顔を隠せる。自然に。
雨が好きだ。傘をさせるから。
智は青い傘の中で少し笑った。
30代サラリーマン2児の子持ち。某メディアで勤続10年あまり。写真と本と日々思いついたことを書いていきます。カメラはa7iii。下手の横好き。贔屓チームはヤクルト。