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ヒーローになりたかった少年の唄2021②

チェッカーズとエレキギター

小学5年生のお正月、弟と妹にもお年玉をカンパさせて、僕は初めてのエレキギターを手に入れた。

いわゆるストラトキャスターというモデルで、二幸お茶の間ショッピングかなんかの広告に出ていた、安~い初心者向けのギターとアンプのセットだった。

もちろんTAB譜も読めなきゃ、コードもわからない、ギターやってる友達もいないし、ネットがあるわけでもないから、練習するっていってもどうやっていいのか全くわからない。
小遣いをはたいて教則本を買ってみても、説明が難しくてなにがなにやらよくわからん。

ウチにはもともと古いクラッシックギターが一台だけあって、それは左翼劇団の役者をやっていた親父が、反戦劇の中で「ざわわ ざわわ」っていう、森山良子さんの歌を弾き語りするシーンで使われたきり、ずっと放置され、ペグもサビサビで弦も何本か切れていた。

目の前にあったクラッシックギターに僕はほとんど興味がなかった。

興味があるのは、なんといってもエレキギターなんである。
ギャンギャンに歪ませた音で、有名ギタリストみたいにカッチョよく弾き倒したい!!

そのうちディストーションというギターの音色をギンギンに変えるエフェクターを手に入れた。

そして全く弾けないながら、ボリュームをフルにひねっては、夜な夜な

ギュィーーーン!!

ギョワワーーン!!!

と、やるのだった。

当然、家族たちは単なる騒音でしかない僕のギターの音を心地よく思うわけはなく、うるさいからやめろと怒鳴られるし、友達に聞かせられるレベルでもないので、つまらなくなってそのうち触らなくなった。

ある時、チェッカーズが静岡の駅にやって来た。

まだ、売れる前のプロモーション時期で、改装され綺麗になった静岡の駅ビル「パルシェ」の噴水広場でのプロモーションライブ。
僕はたまたまそこを通りかかった。

カッチョイイお兄さん達がロックなかんじの演奏をしていて、ステージ前には、ポニーテールにミニスカートのお姉さん達が何人か踊っていた。

うわぁ、カッチョイイ~❤

僕は「チェッカーズ」という名を胸に刻み込んで家に帰った。

その後チェッカーズは「涙のリクエスト」をリリースし、爆発的に人気が出て、テレビやラジオで毎日のように曲がかかるようになった。

人気番組ザ・ベストテンで、1位と2位をチェッカーズが独占しだした頃、彼らの静岡ライブが決まった。

静岡パルシェの屋上広場での無料ライブ。

ふだんはビアガーデンで、ハワイアンの人達なんかが演奏したり、駆け出しのアイドルがイベントを張って踊ったりしているそのステージに、またチェッカーズが来るという。

売れる前からチェッカーズを知っていた、という自負のあった僕は絶対に見に行くと決めていた。

しかし、現実は甘くなかった。

いや、チェッカーズにとってはもしかしたら甘かったのかもしれない。

当日、静岡駅を目指して歩いて行くと駅に近づくにつれて、普段ではありえないくらいの人混み。

あれ?
今日なんかのお祭りだったかな??


途中からは、もう動けないくらいの人、人、人。

うわ、これ全部チェッカーズを見ようと集まってきた人達だったんだ!!

結局、僕は駅ビルの道を挟んで向かい側にある松坂屋の屋上から、米粒みたいなチェッカーズを見た。
見下ろせば駅前の大通りには溢れかえるほどの人の群れ。

たったの何ヶ月かでこの人気の急上昇。
初めて目の当たりにした、アメリカンドリームばりのミラクル!!

そして次の日から、僕はまたエレキギターを手にすることになる。

しかし、今度はただ単なるディストーションオナニーではなく、当時流行していた、「明星」「平凡」「近代映画」などの雑誌の付録についていた、楽譜付きの歌詞本を見ながら、ゆっくりコードを覚え、ちゃんとしたギター練習をはじめた。

もしあのシーンを見てなかったら、僕がギターをちゃんと覚えられたかどうかも怪しい。

僕の作った楽曲をよーく聴くと、もしかしたらチェッカーズファンだった頃の片鱗が、垣間見れるかもしれないし、見れないかもしれない。


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