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デザイナーが情報発信をする100のメリット

このnoteは、2019年12月10日に行われた『note designer meet up~これからのデザイナーに求められる情報発信』においての、私の登壇内容を書き起こしたものです。

当日は15分のライトニングトークだったため、登壇では話しきれなかったことも加えています。

デザイナー対象のイベントなので、タイトルは「デザイナーが~」になっていますが、内容はデザイナーに限らないもので、情報発信すべきか迷っているすべての人の後押しになるものだと思います。

スライドはこちらをご覧ください。

以下、スライドの一部を抜粋しながら、詳しく解説します。

100のメリットと5つのカラクリ

「なぜ情報発信をするのですか?」

こういう質問をいただくと、私は少々戸惑います。なぜなら、情報発信のメリットはあまりにも多く、広範囲で、どこに焦点を絞ってお話をしていいか分からなくなるからです。

例えば、「メリットを100あげろ」と言われても不可能ではなく、以下のように簡単に思いつきます。

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しかしながら、情報発信のメリットを一つずつ意識して行動するより、情報発信の特性を理解した方が、より価値が分かるのではないかと思い、「5つのカラクリ」とまとめてみました。これを一つずつ解説していきます。

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1. 情報の磁力

向上心が強いデザイナーと話をすると、「もっと情報収集しないと」「もっとインプットしないと」といった言葉を耳にします。

確かにデザイナーの仕事は、本質的な問題解決に近付くほど、デザインツールが使える、UIがデザインできる、だけでは務まらなくなります。

対峙している業界の知識はもちろん、人や社会、政治経済、文化、歴史、ビジネスなどを幅広く知り、それらをかけ合わせてアイデアを生み出していく、総合格闘技的な一面があります。

そのため、日常的な情報のインプットやアップデートは確かに重要です。

しかしもう一歩踏み込んで考えると、強い意思で時間を作って情報収集やインプットをし続けるより、自然に行動しているだけで勝手に情報が集まってくる環境を作った方が良いのでは、とも思います。

ある程度優秀なデザイナーになると、たくさんの仕事や難しい仕事が集まってきて、忙しくなります。そのレベルまで到達すると、「勝手に情報が集まる環境を作る」ことの重要性が顕著になります。そしてそれは、情報発信によって可能になります。

なぜ新聞社は、世間がまだ知らない情報を膨大に握っているのでしょうか。なぜ週刊文春には誰も知らないスクープ記事が舞い込むのでしょうか。もちろん、組織的な活動もあるでしょうが、「情報発信力があるから情報が集まってくる」と捉えることもできます。

これは、情報の極めて基本的な性質です。情報は情報の発信源に集まってくるのです。

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このようなメリットは、SNSを積極的に使っている人なら自然と経験しているはずです。例えば以下では、私が書いた記事を引用した上で、新しい情報がツイートに付加されています。

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このように、情報を発信すると、付随情報を提供してくれたり、違った視点を与えてくれる人が現れます。そのすべてが有益ではありませんが、発信力が強いほど、多くのフィードバックが集まり、有益な情報が紛れ込みます。

そしてこれは、SNSやネット上だけで起きる現象ではありません。

「先日アップしてたブログについてだけど…」とクライアントと打ち合わせの席上でその話題になることがあります。

イベントで話しかけてくれた人が「あの記事なんですが…」と質問や議論を持ちかけてくれることもあります。

「枌谷さんに紹介したい人がいる」と、情報発信を切っ掛けに新しい人脈が広がることもあります。リアルな会話の中には、ネット上にはない情報も多く、こういった機会を多く作ることはとても重要です。

このように、情報発信をすることで「知のネットワーク」が構築され、自分から情報を取りに行かなくても、有益で貴重な情報が勝手に入ってくる環境を作ることができるのです。

情報発信といえば、一方的に、滅私奉公的に、自分だけが情報を提供することと思いがちです。しかしそうではありません。情報を吸い寄せ、さらなる情報通になっていくための、情報発信なのです。

2. 噴水効果

Twitterで情報発信の有用性を語ると、「大事なノウハウを公開するなんてありえない」という反対意見をいただくことがあります。イベントに登壇した時も、「なぜ大事な情報を外に出してしまうのか?」といった質問を受けたことがありました。

情報発信が有用かどうかを判断する基本公式は、以下のようなものです。

メリット ー デメリット = リターン(プラス or マイナス)

「情報発信は得策ではない」と考えるのは、メリットからデメリットを差し引いた時にリターンがマイナスになると思うからでしょう。

確かに、業界や分野によっては、ノウハウを隠した方がいいこともあるでしょう。しかし、本当は隠さない方が得をするのに、損をすると固定観念でそう思ってることもあるのではないでしょうか。

インターネット登場以前は、情報流通が穏やかな時代でした。そういった時代では、ノウハウをできるだけ隠し続けることが、会社や事業の寿命を延ばすセオリーだったかもしれません。

しかしインターネットが登場し、情報は一気に広まるようになりました。自分が一生懸命編み出したノウハウを、どこかの誰かも考えてて、あるいはもっと良いものを作り出してて、それが情報として流通し、あっという間に優位性や独自性を失うことが当たり前に起こります。

このような時代では、ノウハウを隠すより、公開することによってファンを生み出し、業界リーダーとしての地位を作った方が、リターンが大きくなるのではないでしょうか。

例えば、私たちの会社は17人程度のweb制作会社です。全員が制作者であり、マーケティングや営業を選任で行うメンバーはいません。組織編制として、顧客獲得に有利な体制ではありません。

しかしながら、ほぼ毎年、年間で400件ほどの新規の引き合いがあります。これは私たちが必要とする受注数の約40倍です。

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また採用も、2019年だけで約70名の応募がありました。これは転職サイトなどではなく、自社採用サイトだけの数字です。

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このような、会社の規模と不釣り合いな現象が起こるのは、情報の噴水効果を利用して、リターンをプラスに転じているからです。

噴水効果とは、以下のようなものです。

まず土台として会社と事業があります。その事業を運営する中で培ったノウハウを情報発信していきます。

デザイナーが情報発信をする100のメリット(公開版)

すると市場にファンが生まれます。

デザイナーが情報発信をする100のメリット(公開版)

ファンの一部は顧客となり、実績として事業に組み込まれます。

デザイナーが情報発信をする100のメリット(公開版)

事業はそこで学んだノウハウをもとに、事業を強化します。それがまた情報発信のネタになります。

さらにファンの一部は求職者になり、会社に応募してきます。

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優秀な応募者によって組織はさらに強化され、そこで得たノウハウがまた情報発信のネタになります。

情報流通が高速に行われる今の時代だからこそ、こういった効果がより強く表れるのです。

このようなメカニズムを知った上で、「それでもやっぱり情報発信は得策ではない」と言い切れるでしょうか。今までのやり方に限界を感じるなら、試す価値はあるのではないでしょうか。

3. 見えないクチコミ

私はこの3年間で、Twitterのフォロワー数が800人から30,000人にまで増えたましたが、フォロワー増による変化の一つに、「予想外の出来事が起きる」がありました。今の私の状況を、フォロワー数800人だった3年前には想像していませんでした。

このように「自分の想像を超える出来事が起きる」のは、自分の目では見えない世界まで情報が拡がるからです。

そういった現象の断片は、アクセス解析からも伺うことができます。例えば以下は、2019年10月16日に公開したベイジの新しいオウンドメディアです。

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小さなBtoB企業のお手製オウンドメディアなので、膨大なトラフィックはありませんが、それでも公開1カ月でなんとか8万PVを達成しました。

この当社のオウンドメディアを知る方なら、「SNSでよく拡散してる」という印象を持たれてるかもしれません。そのため、アクセス解析上の流入チャネルも「Socialが一番多い」と思うでしょう。

しかし、デバイスをPCに絞ったうえでレポートを見ると、それとはやや異なる結果が出てきます。(デバイスをPCに絞るのは、スマホアプリからの訪問を除外するため)

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これを見ると、「Social」からの流入は確かに多いのですが、それをわずかに上回っているのが「Direct」からの流入です。Directというのは、リファラーが取れない、参照元が分からない遷移がひとまとめになったチャネルです。

かつてはDirectは、「ブックマークか、アドレスバーからの遷移」などと説明されたこともありましたが、むしろ今は、多くはデスクトップアプリケーション等からの遷移と考える方が自然でしょう。

具体的には、チャット、メール、グループウェア、ナレッジウェアなどからの遷移です。これらはリファラーが付かず、Directに集計されます。そしてこういったデータから見えてくるのが「ダークソーシャル」の存在です。

ダークソーシャルとは、FacebookやTwitterのようなオープンなソーシャルメディアとの対比で生まれた概念で、データなどでは可視化されない「見えないソーシャル」のことです。例えばLINEはAPIも提供されておらず、ツールでも計測ができないことから、LINEの中はダークソーシャルといえます。

このダークソーシャルは確かに可視化できません。どういうツールがどのくらい使われ、どういう経路で来るのかを確かめることはできません。データとして見えない以上、コントロールも不可能です。

しかし、データとして見えないというのは、存在しない、という意味ではありません。このような目には見えない動きを想定した上で、刺激を与えることはできます。つまり、情報発信を行って、ダークソーシャルを刺激し、オープンソーシャル以上のクチコミを発生させることもできるのです。

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このようなクチコミはオフラインにも波及します。打ち合わせ、休憩室、隣の社員との雑談などで、ネット上の記事が話題になることは日常的です。SNSが制限されている会社でさえ、このようなことが起こります。

また、企業向けにビジネスをする時には、複数の人物が情報交換しながら意思決定をしていく特性も覚えておくと良いでしょう。これはDMU(Decision Making Unit)などとも言われています。

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クチコミというと、BtoCの話のように思えますが、BtoBでもクチコミは発生します。それは主に社内で発生し、BtoCより真剣に扱われます。なぜなら、仕事を楽にしたり、給与や評価に繋がったり、上司からの圧力を軽減させたりが期待できるからです。DMUの間に飛び交う情報は、「コンビニのスイーツが美味しい」よりもはるかにシリアスなのです。

その中に情報を紛れ込ませることが、情報発信によって可能です。それは可視化できないので、自分の目では確かめられませんが、ある日突然、なんらかの出来事として発現するのです。情報発信が「予想外の事を引き起こす」というのは、こういうカラクリで起こります。

ちなみに、デザイナーの仕事は基本的に企業相手のBtoBビジネスです。インハウスのデザイナーも、直接対峙するのは自分が所属する企業であり、その意味で、広義のBtoBビジネスといえるでしょう。だからこのような、BtoBビジネスのメカニズムを知っておくと、デザイナーの仕事やキャリアが有利なモノとなるでしょう。

4. 時空を超える

基本的にデザイナーは、人的ネットワークがあまり広くありません。顔が広いと思う人も、業界内で閉じていることが多く、デザイン業界を超えて色々な人と交流している人は稀です。

その理由の一つには、営業やコンサルタントのような人と会う仕事ではなく、基本的にPCに向かってモノづくりする仕事だから、というのはあるでしょう。デザインの仕事に没頭した結果、1年間で新たに出会った人は10人もいない、ということが起こっても不思議ではないでしょう。

ただ、意識的に人と出会おうとしても限界はあります。時間は24時間しかありませんし、自分のカラダは一つしかありません。しかし、ネット上に情報を載せると、この時間と場所(空間)の限界を突破することができます。

まず、情報は時間を超えて効果が出る、と言うことからお話ししましょう。

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私は仕事柄、BtoB企業のオウンドメディアを分析することが多いのですが、ほとんどのオウンドメディアは直帰率が80%を超えています。詳しくない担当者だと「直帰率が高いのが問題なので改善したい」と言ってきたりしますが、これは自然な数字です。多くの人は、オウンドメディアの記事を見たらすぐ立ち去るのです。

そしてコンバージョンは、遅れてやってきます。2か月後、3か月後、あるいは半年後や1年後に、会社名で自然検索をし、ホームに訪問してコンバージョンします。さらには、オウンドメディアを見た人と違う人がコンバージョンすることもあります。前述のようにDMUの中で情報が交わされ、別の人物の行動に移るためです。

このように、オウンドメディアでの情報発信は、時間差で効果が現れます。アクセス解析では掴めないパターンで効果を生むこともあります。このことを知らないと、「情報発信の効果がない」と誤解してしまうでしょう。

これは、AIアナリストというSaaSを提供している株式会社WACULさんの「AIアナリスト・ブログ」における、時間と成果の相関を示したグラフです。

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ブログを始めて半年後にCPAが急下降し、さらに1年後から効果が積みあがっていくことが見受けられます。ここでも、情報発信の効果が時間差で現れることがよく分かります。

そして情報は、時間だけではなく、場所や空間も超えていきます。

こちらは当社オウンドメディアの、開始1カ月時点の訪問者の情報です。

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1カ月で約4万5千人のユニークユーザーと接触しています。約半数は会社の拠点である東京ですが、残りは47の道府県すべてに広がっています。1カ月で日本全国の4万5千人と接触することなど普通に働いていれば不可能ですが、情報発信をすれば疑似的にこういう状況を作り出すことができます。

違った点から見てみましょう。

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人には1日24時間しかないし、体は一つしかありません。そのまま働いていても、1カ月に出会える人は10人~100人くらいに留まるでしょう。しかし情報発信をすれば、1000人とも1万人とも、うまくやれば10万人以上にも接触できます。このような活動を積み重ねた人と、そうでない人との間には、影響力、知名度、チャンスの数など、様々な差がついていきます。

デスクに向かってることが多い仕事ほど、時空を超える情報発信の特性を使ってネットワークを広げるべきでは、と思うわけです。

5. 成長サイクル

ここまでの話に共通するのは、他者の役に立ちながら最終的には自分が得をしている、ということでした。そして最後に、より直接的に「自分のため」である理由をご説明します。

情報発信によって、スキルアップが常態化します。それはこのようなサイクルで発生します。

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情報発信が習慣化すると、発信欲が芽生えます。仕事や生活の中で経験するあらゆるものが、ネタになるのではないか、という目で見るようになります。気付きが増え、解像度や洞察力、想像力が上がっていきます。

やがてそれをコンテンツ化していきます。この過程では、論理思考力、言語化能力、構造化能力、抽象化能力が磨かれます。

そして情報発信をし、何らかの評価が得られます。イイネ数かもしれませんし、RT数かもしれませんし、PVかもしれません。ゲームのような感覚で、それらの「ご褒美」がうれしくなり、また発信をしたくなります。

このサイクルに入るためには、習慣化までの努力が必要です。習慣化できるまでは、頑張って投稿を続けるなど、自分を奮い立たせる必要があります。

例えばnoteでは、毎日の投稿を自身に課している方もいます。実践している人に話を聞くと「発信の壁がなくなった」「発信が自然にできるようになった」とおっしゃることも多いですが、習慣化とはこういう状態です。

情報発信が習慣化してこのサイクルに入れば、努力と言うほどの苦労を感じず、楽しみながらスキルアップできるようになります。

また、情報発信によって磨かれるスキルは、業種や職種関係なく活用できる、汎用的なスキルが非常に多いです。

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つまり、情報を発信し続けていれば、時代や場所に左右されない強く普遍的なスキルが自然と磨かれていく、というわけです。

まとめ

ここまでの話を読めばもう、「情報発信の必要はない」と思う方はいないでしょう。

確かに情報発信をすれば、全員すぐそのメリットを享受できるわけではありません。上手な人とそうでない人で得られる成果も異なります。しかし情報発信を先延ばしにするほど、発信力が身に付くのも先延ばしになります。

私が今、noteのイベントにお声がけをいただき、こうやって記事を書いているのは、2012年にブログを書き始め、2016年からTwitterを本格的にやり始めたからかもしれません。もしその時期が後ろにずれていたら、すくなくともこの段階で、こういう機会を得てはいなかったかもしれません。

情報発信に「早すぎる」はありません。noteやTwitterなど、今すぐにでも情報発信ができる環境は揃っています。さあ、今日から情報発信を始めてみましょう!

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