推し、奉職す。(予定)✿第17回|実咲
大河名物(らしい)、ナレーションだけで人の死が伝えられる、通称「ナレ死」。戦でもないのにここまで大量に一気に死んだことはこれまであるのでしょうか。
公卿一掃セール、内閣総辞職ビームといわんばかりに、「光る君へ」第18話では、公卿会議に居並ぶ面々があっという間に流行り病でこの世を去りました。
関白 藤原道隆(43) 4月10日
左大臣 源重信(74) 5月8日
右大臣 藤原道兼(35) 5月8日(道長の兄:関白になった後死去)
内大臣 藤原伊周(22)
大納言 藤原朝光(45) 3月20日
大納言 藤原済時(55) 4月23日
権大納言 藤原道長(30)
権大納言 藤原道頼(25) 6月11日
中納言 藤原顕光(52)
中納言 源保光(72) 5月8日(行成の母方の祖父)
中納言 藤原公季(39)
権中納言 源時中(54)
権中納言 源伊陟(59)5月22日
権中納言 藤原懐忠(61)
流行り病ではなく糖尿病ですが、前回この世を去った道隆に代わり関白になった道兼も、たったの7日で亡くなってしまいました。
次の政権を担うトップ争いは、生き残った最上位である叔父の権大納言道長と甥の内大臣伊周との一騎討ち。
一条天皇は、愛する中宮定子の兄である伊周にと内心考えていたのですが、結局伊周が若すぎることや、人望に乏しく他の公卿の賛同を得られないことが予想されたこともあり、母詮子の進言にしたがい道長を関白とほぼ同権の内覧に任じます。
この詮子の深夜の涙ながらの訴えというのは、歴史物語である『大鏡』に描かれているエピソードです。
道長は正直なところ気乗りはしていない様子ですが、権力の頂点に立ってしまった以上は腹をくくるしかありません。
若き日の思い出を胸に、これからは自分が中心となって政治を動かしていくことになります。
今回行成は、道長が政権のトップに立つことになる前に斉信、公任と共に語らうシーンに登場しました。
自分は道長贔屓だと口にする行成と、道長がトップになれば追従すると言う斉信。公任は道長の心境を慮っていました。
長らくほぼ無職状態だった行成ですが、今回、長徳元年6月19日の道長が右大臣に任じられるところまで時代が進みました。
次回予告を見る限り、来週はさらに時が進む模様。
と、いうことは。ついについに、次回は行成脱無職!!
今回はそれを祝して、2カ月だけ未来の話になります。
行成は24歳になった長徳元年8月29日に、蔵人頭に任じられます。
24歳の時です。
この蔵人頭の前任者は、道長の妻明子の兄俊賢。
行成の蔵人頭への任官は、俊賢が推薦したという話もあります。
連載第7回でもお話しましたが、蔵人頭は令外官の役職。蔵人所の実質的な長官です。
蔵人は作中でもまひろ(後の紫式部)の父為時や、若かりし頃の道兼、実資なども任じられていた天皇の秘書官です。
当時は、たとえ摂政・関白といえども軽率に天皇と臣下が会うことはできません。
蔵人が取り次ぐことで、天皇と臣下はやり取りをすることができました。
蔵人は天皇と非常に距離の近い役職で、それを束ねるのが蔵人頭です。
この蔵人には、今の宮内庁侍従職とは違い、じつは制服がありました。
主に天皇が着用する麹塵袍(青色袍)と呼ばれる深緑色の装束を着ることを許されていて、宮中では一目で蔵人と分かるのです。
作中では、蔵人頭に在任中の公任や実資、俊賢が着ていたものです。
清少納言は『枕草子』の中でこの青色袍について随分ご執心です。
六位の蔵人は、身分の高い貴公子でもあまり着られない綾織物を、気ままにいい感じに着ている青色袍姿がグッとくる!だとか、蔵人は制服の青色袍がイイのに、女のところに忍んでくる時に狩衣(日常着)に着替えてこないで!萎える!!など書いています。
もしかしたら、彼女は制服に高ぶるタイプの人だったのかもしれません。
現代でも制服というのは、割と好きな人が多いトピックスです。
ちなみに、現代人からしてみれば「緑」にしか見えないこの青色袍ですが、これは信号の緑を「青」と呼んだり、葉物野菜を「青物」と呼んだりするのと同じです。
昔の日本では色の名前が少なく、「青」が指す色の範囲が今よりも広かったことに由来しています。
この蔵人頭の定員は2名となっており、大抵もう一つ別の役職をそれそれ帯びています。
一人は近衛府の次官、中将を兼ねている者。蔵人頭と中将を合わせて「頭中将」と呼ばれます。
『源氏物語』で光源氏の義兄であり親友である頭中将は、この役職名で呼ばれているわけです。
頭中将は一般的に、上級貴族の子弟がなることが多く、今後の出世コースの登竜門になります。
作中でも公任・斉信などはこの「蔵人頭」になっていました。
いわば、約束されたエリートコースの入り口。
もう一人は、弁官という官庁を指揮監督する役職を兼ねていることが多いです。
この弁官は、いわゆる実務派官僚といっていい人達で、書類をさばく事務処理に長けている人が就くポジション。
将来の出世が見込まれるいいところの若君には限らず、下からコツコツのたたき上げ官僚タイプが就く場合もあります。
蔵人頭を兼ねる場合は、弁官と蔵人頭を合わせて「頭弁」と呼ばれています。
作中では俊賢が現在任じられていますが、行成は後にこの弁官も兼ねた「頭弁」になり、この名前で『枕草子』にも度々登場することになります。
蔵人頭はとにかく激務なポジションです。
公卿たちと天皇の間を行ったり来たりし、合間で書類を裁くスキルも求められます。
大抵3年前後でお役御免となり、次のステップである参議に進むことが多いです。
しかし、行成はあまりに仕事が出来すぎたこともあり、一条天皇の信頼が厚すぎて手元からなかなか手放してくれません。
行成が参議になってしまうと、一条天皇は行成と頻繁に密に会うことができなくなるからです。
行成は時に体調を崩しながら、昇進願いを断られながら、結局6年ほど、この蔵人頭をつとめることになるのです。
有能なことも良し悪しといったあたり、現代でも聞いたことのある話ではないかと思います。
職に就いても、苦難の道のりがこれからも続くことになる行成なのです。