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大好評『タロットの美術史』シリーズより、「巻末特別寄稿」の一部を特別公開!|9巻

大好評『タロットの美術史』シリーズより、
「巻末特別寄稿」(2巻~12巻に収載)の一部を特別公開!
超豪華ゲスト陣による本書でしか読めない
タロットにまつわるエッセイです。

9巻 塔・星

■9巻 塔・星

寄稿者:井奥陽子

(美学/日本学術振興会特別研究員)

◆アレゴリーの誘惑◆

 神秘的でエキゾチック、少し禍々しくもある。タロットに描かれた図像はわたしたちの想像力を刺激し、常識や論理にもとづいた思考からひととき解放してくれる。
 15世紀イタリアで貴族のカードゲームとして誕生したタロットは、18世紀のフランスで古代エジプト起源だと信じられ、占いや魔術の道具に変身した。絵札が放つ謎めいたオーラが、18世紀パリの空気――古代異教や原初世界への憧憬、神秘主義の隆盛――に共鳴したからだ。
 とはいえ15世紀イタリアの人々にとっては、タロットはそこまで奇怪なオーラを纏っていなかったはずだ。絵札の図像は、当時の教養人には馴染みのあるモチーフやアレゴリーを描いたものだと言われている。
 アレゴリー(寓意)とは、抽象的な概念をそれとは別の具体的なものによって示す表現方法を言う。擬人化が典型例だ。たとえば剣と天秤を持った女性像は、そのような格好をした特定の誰かではなく、「正義」という概念を表す。
 芸術思想の歴史から見れば、18世紀末〜19世紀の人々がタロットのアレゴリカルな図像表現に魅了されたという事実は興味深い。ちょうど時代はアレゴリーが批判され、この伝統ある技法があまり用いられなくなった時期なのである。
 なぜアレゴリーが衰退したのか。個人の独創性が重視されるようになり、芸術が“読解するもの”から“感じるもの”に変化したからである。また学問の近代化が進み、概念を図像で表すことの曖昧さが忌避されるようになったことも一因とされる。
 アレゴリーは型にはまった表現だ。誰でも学びさえすれば使うことができる。しかもぱっと見て直感的に分かるものではなく、知識がなければ理解できない。さらには、…………

【この続きはぜひ本書で!】