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風景のレシピ | nakaban

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私たちは本当には何を見ているのか――「旅と記憶」を主題に絵を描く画家のnakabanによる、風景画へのまったく新しいアプローチ。人が世界をどう見て、どう捉え、どう表現するかという… もっと読む
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2023年3月の記事一覧

風景のレシピ #52 “Airport”| nakaban

風景のレシピ #52 “Airport” 1.よく整備された旧式の飛行機を一機配置する。   飛行機の扉を開けてタラップ車と接続する。 2.アスファルトで覆われた空港の敷地を彼方まで拡げ、   さらに数機の飛行機を配置する。   向こうと手前を囲むように空港のターミナルビルを建てる。   温度を上げ、アスファルトの地面に陽炎を立たせる。 3.リムジンバスや荷物車などを配置する。 4.すぐ手前にターミナルビルの窓枠を設け、旅人の手荷物を並べる。 5.構内のざわめき、放

風景のレシピ #51 “Sun Gazer”| nakaban

風景のレシピ #51 “Sun Gazer” 1.さまざまな色の光をあつめ、よく煮詰めて太陽をつくる。 2.できあがった太陽を空に浮かべる。   太陽を中心に光の輪を重ねていく。   ところどころ輪から逸脱する動きもみせる。 3.空の広さを邪魔しないように家々を配置する。電飾灯をかかげる。 4.気がつけば、誰もいない街角に立っている。   今を記憶に深く留めたら、出来上がり。

風景のレシピ #50 “朝の散歩”| nakaban

風景のレシピ #50 “朝の散歩” 1.朝の空気を拡げ、この空間に冷気の名残をしっかりと馴染ませる。 2.山の斜面のような地形をつくる。   眠りから覚めないままの建物を建てていく。   建物と建物の隙間は畑にして作物を植える。 3.山の斜面を登っていくための小径を通す。   この小径をゆっくりと歩いてみる。   必要な地点に木々を植え、街灯を配置する。   いろいろなもの全てに朝露をふりかける。 4.世界を少しづつ暖めるように、金色の朝靄を漂わせる。   温まった大

風景のレシピ #49 “グルニエ”| nakaban

風景のレシピ #49 “グルニエ 1.ビルの屋上付近を思わせる、がらんとした空間を広げる。 2.空間を鉄の枠で縁取り、リベットでしっかりと固定する。   窓を開け、その空間に存分に光を取り入れる。   屋根部分の斜面も天窓になっている。 3.通路ほどのささやかな面積の床を張り、鉄製の手すりを取り付ける。   空間の奥に倉庫への扉を設置する。   扉は木製で塗装し、上部は鉄枠の明かり取り窓で装飾する。 4.フロアに椅子や什器を配置する。   夕暮れ後のためにランプを取り

風景のレシピ #48 “オリーブの林”| nakaban

風景のレシピ #48 “オリーブの林” 1.オリーブの木を平野に植える。   木の幹の形状は波打ち、表皮に苔が生えている。   たちまちのうちにオリーブの林ができあがる。 2.朝の光をおごそかに振りかける。   光の量が増すにつれて木の陰の色が青みを増していく。 3.葉をよく茂らせ、過去に落ちた葉も地面に敷き詰めておく。   その上を歩くときの乾いた足音を想像する。 4.古木からひこばえを生やす。   近隣の町のろばを迷い込ませる。   ざわざわと風が吹き始めたら、で

風景のレシピ #47 “シルトの岸辺”| nakaban

風景のレシピ #47 “シルトの岸辺” 1.砂を一面にばら撒き、四方に広げる。 2.砂に水を含ませる。よくかき混ぜ、シルトを形成させる。   砂粒と水に光を乱反射させ、視界一面を白く煙らせる。   そこかしこに塗装されたボートを置く。   それらの鮮やかな色も、たちまち色褪せ始める。 3.遠くには真っ白な鉄橋を渡す。   鉄橋の向こうに霞かかった高台を作り、工場のような建物を建てる。 4.その河口のシルトを、目を細めながら散歩している自分を思い浮かべる。