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風景のレシピ | nakaban

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私たちは本当には何を見ているのか――「旅と記憶」を主題に絵を描く画家のnakabanによる、風景画へのまったく新しいアプローチ。人が世界をどう見て、どう捉え、どう表現するかという… もっと読む
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2022年9月の記事一覧

風景のレシピ #16 “都会の夜明け前(トーキョー風)”| nakaban

風景のレシピ #16 “都会の夜明け前(トーキョー風)” 1.ビルディングを並べ、その間に高架橋を通す。 2.ぼんやりとした街の灯りを振り撒き、コンクリートに染み込ませる。 3.高架橋に鉄道を走らせる。鉄の軋む音がこぼれ落ちる。 4.コンビニエンスストア、メトロの入り口、自動販売機などを配置する。それらが路上を少し明るくする。 5.ビルディングの窓をひとつひとつ並べていく。

風景のレシピ #15 “捨てられたモノ”| nakaban

風景のレシピ #15 “捨てられたモノ” 1.建物の一角を切り取り、弱い光をふりかける。   傷だらけの壁と地面に よく年月を染み込ませる。 2.捨てられたモノを置く。   それは絵画、椅子、金管楽器等。   誰かが再び拾い上げ、持ち帰ることもある。 3.小惑星のように小さなゴミもばら撒く。   タバコの吸い殻、空き缶、ボタン、切符、トランプのカード等。 4.鳩を歩かせて、できあがり。

風景のレシピ #14 “忘れる広場”| nakaban

風景のレシピ #14 “忘れる広場” 1.ぐるりと山並みで囲われた空間の中に小さめの広場をつくる。 2.広場を取り囲むように、観光案内所、市庁舎、博物館、ホテル等を並べる。 3.植栽を育てる。物体からの影は青く伸びる。   静かなテラスからその様子を眺める。 4.広場に何者かの彫像を置き、標識や看板を控えめに配置する。 5.しっとりとした夕暮れの空気で一帯を包み、燕を周回させる。

風景のレシピ #13 “霧深き日”| nakaban

風景のレシピ #13 “霧深き日” 1.眠る人の夢の中から、儚い記憶を取り出して、室内に大きくひろげる。 2.古い鉄枠のガラス戸を少しだけ開ける。   朝の霧でつくられたような 優しい光の曇りガラスである。 3.霧の粒子をわずかに室内に浮遊させる。   この部屋を取り囲む霧の向こうのぼんやりとした朝日を想像しながら。 4.舞台のように、テーブルの上に数冊の書物とレモン、木の枝を置く。 5.レモンが放つ陽の名残りと霧の冷たさを対流させる。   相互のバランスをととのえ

風景のレシピ #12 “階段”| nakaban

風景のレシピ #12 “階段” 1.人通りの少ない一画の白い壁に沿って階段を置く。あるいはその壁から掘り出す。 2.階段の上にはどのような眺めがあるのか、想像もつかないまま、一段ずつ丁寧に作業を続ける。 3.壁と階段に光を落とし、その彫刻性を際立たせる。好みで草地をつくる。 4.階段に名前をつける。   何度も昇り降りする。

風景のレシピ #11 “橋と暗い渓谷”| nakaban

風景のレシピ #11 “橋と暗い渓谷” 1.その土地の古層に触れるように地面をよく練る。   乾いた表土とはうらはらに 、岩陰に含まれた水分や、地下の見えない水の流れのあることを意識する。 2.木を植えていく。   木々は岩盤のミネラルと地下水を養分に育っていく。    3.山頂から斜面を伝い降りて来る冷たい空気に触れる。 4.橋を架ける。   それは暗い色で、ほとんど木々と同化しているかのように目立たない。 5.風景全体があたかもひとつの模様のようになる。