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風景のレシピ | nakaban

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私たちは本当には何を見ているのか――「旅と記憶」を主題に絵を描く画家のnakabanによる、風景画へのまったく新しいアプローチ。人が世界をどう見て、どう捉え、どう表現するかという… もっと読む
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2022年7月の記事一覧

風景のレシピ #4“夕景・手・オブジェ”| nakaban

風景のレシピ#4“夕景・手・オブジェ” 1.太陽は少し冷ましておき、大気中にもやを拡げ、ゆっくりとのばしていく。 2.家々を建て、日にさらす。   美術館らしき建物をひとつ、広場をひとつ。 3.視界に入ったオブジェ(*)を手に持ち空間にかざす。(*オブジェ:本作例ではフィラメントが切れた電球) 4.帰路に就く人々を配置する。 5.傾いた木々を配置しながら、空間のバランスをとり、できあがり。

風景のレシピ #3“松林の散歩者”| nakaban

風景のレシピ#3“松林の散歩者” 1.道に立ち、周りを見渡す。   一気に松の木々を生やす。   木の幹をうねらせる。(100年が一瞬のように松の木を成長させる) 2.松の香りを風に乗せる。 3.数段の浅い階段をつくる。   階段を登り切ったところで道行きを視界から消す。 4.われわれには知覚できない、植物たちの会話。   そのことを思いながら枝振りを整える。小花を咲かせる。 5.ふと、道を振り返る。同じ松林の道がどこまでも続いている。 6.枝間から降り注ぐ光を散

風景のレシピ #2“石と流木のある部屋”| nakaban

風景のレシピ#2“石と流木のある部屋” 1.流木の柄のコテを手に取り、四方の壁を塗って部屋をかたち作る。   部屋の中で手を打てば響くような、がらんとした空間。 2.部屋を見渡し、窓をひとつ開ける。 3.階段を作る。   階段の向こうにも光を差す。   窓と階段によって、停滞した時が流れ始めるのを確かめる。 4.窓を開け、部屋の空気と外の空気をよく混ぜる。 5.相応しい場所にテーブルなどの家具を置く。 6.水槽やガラス瓶をテーブルに並べる。   薄暗い室内の中でも

風景のレシピ #1“眠たい海辺の町”| nakaban

序文 何もしたくない休日の昼下がり。僕はキッチンの小さな窓から外の風景を眺めていた。この数日、暗い灰色だった空にようやく青い色が生まれ、インクの染みのようにゆっくりと拡がりはじめていた。空の下は、息をひそめたようないつもの町。その稜線から突き出て、古い煙突が見える。来月解体されるその煉瓦の塔は、羽を休めに来た一羽の鳥に何かことづてをしているようにみえる。今、鳥のくちばしは水辺の方を向いている。海までそう遠くない汽水は、光をふくみながら美しくささめいていた。 食事を摂るこ