マガジンのカバー画像

すべてのひとに庭がひつよう|石躍凌摩

13
庭師としての日々の実践と思索の只中から、この世界とそこで生きる人間への新しい視点を切り開いていくエッセイ。
運営しているクリエイター

2022年8月の記事一覧

【連載】すべてのひとに庭がひつよう 第2回|私という庭師のつくりかた|石躍凌摩

*** 第2回私という庭師のつくりかた(一)  かねてから、私はずっと何者でもなく、また何者にもなりたくはなかった。そのような私にとって、自己紹介というものは長らく、そうして今でも、至難の業である。いったい、何を語ればよいというのか。知らずに生まれて、気づけば生きていたというのに、この生のどこに、ひとは掴みどころを見出すのか──このような気分は、今となっては随分と鳴りをひそめているが、なおも私が何者でもないということは、この生の根本的な気分をなしている。  そうしてこれ

【連載】すべてのひとに庭がひつよう 第1回|はじめに|石躍凌摩

*** 第1回 はじめに 「この帽子、自分でつくったの」  それは世にも素敵な帽子だった。それがひとの手と、庭に生えているものだけでつくられたとは、とうてい思いもよらなかった。事もなげに、といった様子で、彼女は話を続けた。  「アトリエの庭に、あるときからチカラシバが生えてきたのを、株が大きく広がるからどうしたものかと、なかば困って、けれどなかばは好きでとっておいたその葉を、いつかふいにさわってみたら、イネ科にしてはやわらかい──これは、紐になると思った。かねてから、ラ