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すべてのひとに庭がひつよう|石躍凌摩

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庭師としての日々の実践と思索の只中から、この世界とそこで生きる人間への新しい視点を切り開いていくエッセイ。二十四節気に合わせて、月に2回更新します。
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記事一覧

【連載】すべてのひとに庭がひつよう 第4回|胡桃の中の世界|石躍凌摩

*** 第4回胡桃の中の世界  中秋の名月の翌日に、染めもの屋ふく(*1)主催の「草紐の会」に参加してきた。気づくとどこにでも生えている苧麻(チョマ、カラムシ、ラミー)は、明治に入って綿が広く普及する以前には、これが衣服の素材の主流をなしており、かつては広く栽培され、工夫の末に糸が|績まれて、布が織られてきたという。それは今でも使われており、私がいつも被っている、作家・花月日(*2)の手になる種蒔帽と名付けられた帽子にも、亜麻と苧麻が経緯に織られた不均一さのうつくしい布が

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【連載】すべてのひとに庭がひつよう 第3回|うつわのような庭|石躍凌摩

*** 第3回うつわのような庭 「庭があって、そこに森があるんです」 「森、ですか」 「そう、来たらわかると思います。そろそろ手を入れないといけないかな、とちょうど思っていたので、アトリエに来られることがあれば、それも見てほしいんです」  陶藝家・|金澤尚宜と、その妻さちによるユニット「あよお」(*1)の、かれらが独立してからは初となる個展が月白(*2)であって、うつわを見ながらそれらひとつひとつの奥にある話を聴いているうちに、かれらが窯を据える天草に行ってみたくなった

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【連載】すべてのひとに庭がひつよう 第2回|私という庭師のつくりかた|石躍凌摩

*** 第2回私という庭師のつくりかた(一)  かねてから、私はずっと何者でもなく、また何者にもなりたくはなかった。そのような私にとって、自己紹介というものは長らく、そうして今でも、至難の業である。いったい、何を語ればよいというのか。知らずに生まれて、気づけば生きていたというのに、この生のどこに、ひとは掴みどころを見出すのか──このような気分は、今となっては随分と鳴りをひそめているが、なおも私が何者でもないということは、この生の根本的な気分をなしている。  そうしてこれ

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【連載】すべてのひとに庭がひつよう 第1回|はじめに|石躍凌摩

*** 第1回 はじめに 「この帽子、自分でつくったの」  それは世にも素敵な帽子だった。それがひとの手と、庭に生えているものだけでつくられたとは、とうてい思いもよらなかった。事もなげに、といった様子で、彼女は話を続けた。  「アトリエの庭に、あるときからチカラシバが生えてきたのを、株が大きく広がるからどうしたものかと、なかば困って、けれどなかばは好きでとっておいたその葉を、いつかふいにさわってみたら、イネ科にしてはやわらかい──これは、紐になると思った。かねてから、ラ

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