マガジンのカバー画像

星の味 │ 徳井いつこ

11
日常のふとした隙間、 ほっとため息をつくとき、 眠る前のぼんやりするひととき。 ひと粒、ふた粒、 コンペイトウみたいにいただく。 それは、星の味。 惑星的な視座、 宇宙感覚を…
運営しているクリエイター

#星

星の味 ☆9 “永遠に幼きもの”|徳井いつこ

  やみにきらめくおまえの光、   どこからくるのか、わたしは知らない。   ちかいとも見え、とおいとも見える、   おまえの名をわたしは知らない。   たとえおまえがなんであれ、   ひかれ、ひかれ、小さな星よ!  ミヒャエル・エンデの物語『モモ』の冒頭にそっと添えられている詩には、「アイルランドの子どもの歌より」と書かれている。  世界じゅうで、日本でも長く歌い継がれている「きらきら星」に似ているような……?  時間泥棒に盗まれた時間を、人間に取り返してくれるモモ。あの

星の味 ☆8 “闇から始まる”|徳井いつこ

 夜、部屋を真っ暗にして眠ると、いいことがある。  窓近くの床に、光の線がひとすじ落ちている。  カーテンの隙間からさしこむ月の光は、満月に近づいてくると、いよいよくっきり輝いて、こんなに白かったかと驚かされる。  光の線を、素足で触る。右から左、左から右に。  指先で拭う。拭ったところで落ちるわけではない。  落ちない光の、なんとたのもしい……。  ずっと昔から好きだった詩に、ハンス・カロッサの「古い泉」がある。暗闇から始まる十数行の文章が、果てしない生命の旅を続けている