星の味 ☆8 “闇から始まる”|徳井いつこ
夜、部屋を真っ暗にして眠ると、いいことがある。
窓近くの床に、光の線がひとすじ落ちている。
カーテンの隙間からさしこむ月の光は、満月に近づいてくると、いよいよくっきり輝いて、こんなに白かったかと驚かされる。
光の線を、素足で触る。右から左、左から右に。
指先で拭う。拭ったところで落ちるわけではない。
落ちない光の、なんとたのもしい……。
ずっと昔から好きだった詩に、ハンス・カロッサの「古い泉」がある。暗闇から始まる十数行の文章が、果てしない生命の旅を続けている