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シリーズ「あいだで考える」

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不確かな時代を共に生きていくために必要な「自ら考える力」「他者と対話する力」「遠い世界を想像する力」を養う多様な視点を提供する、10代以上すべての人のための人文書のシリーズ。20… もっと読む
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#立ち読み

【シリーズ「あいだで考える」】最首悟『能力で人を分けなくなる日――いのちと価値のあいだ』の「はじめに」を公開します

* はじめに  中高生のみなさんと話をします。  年が移り、私は87歳になりました。諸事なめらかに進みません。家では4人兄妹の末っ子の星子と星子の母親と私の3人暮らしです。星子はいわゆる重度障害者ですが、47歳で、言葉はなく、目が見えず、食べることをはじめ自分の身の始末をしません。音楽が欠かせず、そして寝ている時も起きている時も、さもおかしそうに、くつくつ笑います。ほんとうに福がやってくるようです。  星子の世話は母親で、母親の世話は父親で、じゃあ私の世話はというと、星子

【シリーズ「あいだで考える」】坂上香 『根っからの悪人っているの?――被害と加害のあいだ』の「はじめに」を公開します

* はじめに  本書の表紙から目に飛びこんでくるのは、「悪人」「加害」「被害」などのネガティブなワードばかりだ。暗い、重い、とパスすることだってできたのに、あなたは本書を手にとった。なぜか? 「犯罪者」っていったいどんな人たちなのか、興味をひかれたから? 「なんで悪人の肩持つのよ? 」ってムカっときたから?  逆に、「サイテーなやつ」のことが、実は気になってる?  いや、「自分のことが書いてあるかも」と思った人だっていると思う。  理由は何であれ、あなたは本書を開いた。

【シリーズ「あいだで考える」】田中真知『風をとおすレッスン――人と人のあいだ』の「はじめに」を公開します

* はじめに ——「つながり」をゆるめる  人間関係に悩むのは、ヒトという種の宿命かもしれない。  ヒトはひとりでは生きていけない。ウミガメの赤ちゃんのように、卵からかえったそのときから自力で生きていくというわけにはいかない。  ヒトは自然の中で生きていくには弱すぎる。キリンやウマの赤ちゃんは産まれてすぐに立ちあがるが、ヒトの赤ちゃんが立ちあがって歩けるようになるには1年くらいかかる。成長しても外敵から身を守るための牙や角もない。逃げようにも足は遅い。体毛もないので寒さに

【シリーズ「あいだで考える」】奈倉有里『ことばの白地図を歩く――翻訳と魔法のあいだ』の「はじめに」を公開します

* はじめに ——印刷機からのメッセージ  ああどうしよう。困ったことになったぞ。  おや、きみは新顔だね。はじめまして。ぼくはいまきみが手にしている白地図を印刷した印刷機だ。えっ、印刷機がしゃべるもんかって? まあまあ、しゃべったっていいじゃないか。だってこれから出かける世界には、妖怪もいるし迷信もあるし学者先生もでてくるし、おまけにきみは魔法が使いたいっていうんだろう? じゃあ印刷機だっておしゃべりするさ。  それより、困ったことになったんだよ。ぜひきみの手をかしてほ

【シリーズ「あいだで考える」】戸谷洋志『SNSの哲学――リアルとオンラインのあいだ』の「はじめに」を公開します

* はじめに  いきなりですが質問です。あなたはふだん、電車のなかで何をして時間をつぶしますか。  窓からの景色を眺めている、という人もいるかもしれませんし、車内の広告を見回してトレンドをチェックする、という人もいるかもしれません。もしかしたら、今まさに電車のなかにいて、この本を読んでくれているという人もいるかもしれません。  しかし、きっと多くの人は、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を利用しているのではないでしょうか。たとえば、Instagram、Twitt

【シリーズ「あいだで考える」】頭木弘樹『自分疲れ――ココロとカラダのあいだ』の「はじめに」を公開します

* はじめに ——自分自身がしっくりこない  自分でいることに、疲れを感じたことはないだろうか?  たとえば、自分の性格が好きではないとか。  自分の体に不満があるとか。 「どうして自分はこうなのだろう……」と悩んでしまう。  それなのに、その性格や体でずっと生きていかなければならない。  気に入らないなあと思いながら、24時間365日、なんとか折り合いをつけながらやっていくのだから、これは疲れないほうがおかしい。  別人になってみたいと願ったことのない人は、少ないので