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書籍制作の進捗管理に何を使うか問題(求む、良い方法)

2019年10月10日に、私、及川卓也の著書『ソフトウェア・ファースト あらゆるビジネスを一変させる最強戦略』が発売となりました。このnoteでは、出版の経緯や書籍づくりの裏話、発刊時に削った原稿の公開など、制作にまつわるさまざまな情報を発信していきます。

こんにちは、及川です。

自宅近くのコインランドリーでこの原稿を書いています。最近のコインランドリーはおしゃれなカフェを併設するところも増え、私が今利用しているところもお茶やコーヒーや軽食を取ることが出来ます。フリーWiFiも用意されているので、洗濯を待つ間に仕事をすることもできます。

普段もカフェやファミレスなどで、MacBookやiPadで仕事をすることが多いのですが、場所や店によって、利用者が結構異なり、仕事の合間につい聴こえてくる会話から色んな想像をすることも多くあります。プロダクトの企画作りにはユーザー理解や課題発見が必要なのですが、このような何気ない風景からの気づきの蓄積が役立ちます。スタバとタリーズでも客層は異なりますし、ドトールだとまた全然違います。マクドナルドには高校生も多く、ほんわかとした気分になれたりします。

人によって快適な作業空間は異なりますが、私に限って言えば、一人で静寂の中で作業するのが向いている場合と、少し雑音があるくらいの環境が良い場合があるようです。また、一日の中でも適度な変化が必要と感じています。外出の予定が無いときでも、オフィスを離れ、近くのカフェで作業することで、めりはりを付けることがあります。カフェなどで作業するときは、時間を決めて、その時間内に終了させるタスクを明確にします。そうすることで、だらだらと時間だけが過ぎてしまうという事態を避けるようにしています。

こんな形で時と場所を選ばずに仕事ができるのも、様々なオンラインのツールの恩恵を受けているからですが、今日はそのようなツールの恩恵を受けた形となる、書籍制作での執筆風景をご紹介します。

SlackとGoogleドライブが制作チームをつなぐ

まず、制作チームが結成されてすぐに行ったのが、Slackの設定でした。当初はFacebookメッセンジャーでコミュニケーションをとっていましたが、制作が本格的にスタートする前にはSlackに切り替えました。Facebookメッセンジャーは、多くの人がアカウントを持っていて、すぐに始められるという点は良いのですが、過去の議論を遡って探すのは大変で、ある程度の期間のプロジェクトには不向きです。Slack以外の選択肢も無いことは無いのですが、私がSlackに慣れていることもあり、Slackを選択しました。

このような場合のSlackの利用は2つの方法があります。1つは別チーム(ワークスペース)を立ち上げる方法。別ワークスペースなので、複数チャンネルを持つことができますが、無料で利用する場合はメッセージ数の上限が1万などいくつかの制限があります。短期間のプロジェクトなので、それほど気にならないと言えば気にならないのですが、それよりも別ワークスペースを持つことの煩雑さを嫌い、今回は、私の会社(Tably)のSlackに専用チャンネルを設け、社外の制作メンバーにはシングルチャンネルゲストとして加わってもらう方法を選択しました。利用されている方も多いと思いますが、Slackでは通常アカウント1つにつき、5アカウントまでシングルチャンネルゲストを持つことができます。今回はそれを利用しました。チャンネルが1つに限定されてしまいましたが、逆にチャンネルの使い分けなどに迷うことも無いので、1つの目的のために集まる短期プロジェクトの場合は既存ワークスペースにシングルチャンネルゲストで加わってもらうというのも良いのではないかと考えています。

次に行ったのは、Googleドライブで共有フォルダを用意したことです。こちらは特に凝った使い方はしていません。オンラインストレージならばなんでも良かったのですが、私がGoogleドライブに慣れていたことから、この方針となりました。

Googleドライブはただのオンラインストレージとしてだけでなく、コンテンツ制作のツールとしても使いました。私が普段からドキュメントはGoogleドキュメント、スプレッドシートはGoogleスプレッドシート、スライドはGoogleスライドというように、基本的なオフィスツールはすべてGoogleドライブを使っているので、今回もそのようにしました。

タスク管理にTrelloを使うとか、コンテンツのバージョン管理にGitHubを使うなどのアイデアも出しましたが、制作チームメンバーの学習コストなどを考えて、Googleスプレッドシートを用いることにしました。しかし、中盤以降明らかにスケジュールが遅延し、タスクのオーナーが不明確になってもそのままで推し進めてしまったのは、進捗管理にスプレッドシートを用いるという判断にも問題があったように思います。次回の書籍執筆時にはスプレッドシートでの管理という提案があっても断固拒否しようと固く心に決めています。

一方、バージョン管理には、Googleドライブでフォルダをこまめに新しくしていくというベタなやり方を用いましたが、結果的にはこれで十分でした。v1フォルダには編集者が目を通す前の初稿。初稿完成後に編集者がv2フォルダにそれらをコピーし、そこにコメントや修正を入れる。私や他の制作メンバーがそのフォルダにさらに修正を加えていき、最終稿となるv3に向けてはまたv3フォルダが用意されるという方法です。

ただ、この方法でも、どの版が現在の作業対象かが分からなくなることがあり、一時的にコンテンツが2つのドキュメントに分散してしまったことあります。それを避けるために、Slackできちんと状況をクリアにさせていくのと同時に、ドキュメントの最上位に古くなったものを触らないようにとの注意書きを入れました。

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今振り返ると、非効率なところも多く、とても褒められた方法ではありません。大事故にならなかったのが不思議です。ただ、今回に関してはどんな状況になったとしても、Googleドキュメントの持つ履歴管理に全幅の信頼を置いていたので、最悪どうにかなると達観はしていました。

次回執筆する際は何か他の方法を試してみたいなと思うものの、GitHubでマークダウンで書くのが本当に最適かもわかりません。まずは小さいプロジェクトで一度試してみるのも良いかなと感じています。

執筆リズムの作り方

この書籍の執筆開始は5月下旬です(一番最初の原稿の履歴を見て確認しました)。

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それから実質4カ月で書籍を完成させたことになります。こう話すと、その期間の短さに驚かれる方も多くいるのですが、私の執筆経験から得られた真実は「どんなに長い期間を確保しても、実際に執筆するのは最後の2カ月である」です。人間はお尻に火がつかないと動かない生き物です(筆者だけかもしれません)。どんなに長く期間を確保していても、最後の1カ月か2カ月が勝負なのです。

しかし、今回はそのような後半追い込み型を期待することはできません。私は日々、クライアントとの契約に従ったプロジェクトを抱えており、毎日がそれこそ秒単位で動いているような状態です。いくらお尻に火がついたとは言え、執筆作業のための時間を潜り込ませることは不可能です。そのため、今回は執筆期間の初期からしっかりと時間を確保し、予定したセクションを完成させていくことを目指すこととしました。

まず最初に、5月から8月までは1週間で最低1日、執筆のための日を確保しました。そのために、本業を少し控え、いくつかのイベント登壇などもお断りさせていただきました。8月までとしたのは、本来は8月には執筆は終わっているはずだったからです。先ほど、執筆期間の後半でさらに執筆時間を確保することは不可能と書きましたが、実際にはその状況に陥り、不可能なはずの執筆時間をどうにか確保して完成にこぎ着けました。これはこれでドラマがあり、また機会を改めて書くかもしれません。

章立ては私からの意見をベースに、編集者が決めました。実際に書いてみないとわからないところも多いので、暫定の章立てです。書籍全体のページ数や1ページあたりの文字数などから、各セクションのおおよそのボリュームがわかります。

私の執筆ペースも最初は手探りでした。雑誌の連載などを持っていた経験から、筆が乗ってくれば半日もかからずに5000字は書けるというのはわかっていました。しかし、今回は執筆前に調査が必要なことも予想され、経験だけをもとに判断はできませんでした。そこで、最初の数回の執筆は自分の執筆ペースを把握することも意識しました。数回の執筆を経て、具体的な作業予定を組みました。

自分の追い込み方

さて次は、実際の執筆作業での工夫です。できるだけ自分を追い込み、集中力を高めて、決められたセクションを書き上げなければなりません。そのため、Slackでその日に行うことを宣言するとともに、進捗を逐一報告するようにしました。基本的にリモートワークでの執筆なのですが、常に第三者から監視されている、執筆せざるを得ない状況を自ら作り出しました。

例えばこれは、7月10日の執筆風景です。ひとりで追い込んで、ひとりで謝っています。それに制作チームメンバーがスタンプで反応し、励ましてくれているという図です。

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また、執筆作業のリズムを作りため、ポモドーロテクニックを用いました。ポモドーロテクニックは25分の作業+5分の休憩を1サイクルとして仕事を進めていく方法で、ソフトウェア開発者の中でも人気の仕事術です。ポモドーロタイマーにはChrome拡張の「マリナラ:Pomodoro® アシスタント」というものを用いました。

以上のように、ソフトウェア・ファーストの制作には、SlackとGoogleドライブを核に、その先は結構泥臭い手法を用いています。今回はあまりに短期決戦だったこともあり、このようになっているのですが、またもし執筆する機会があれば、他の手法も試してみたいと思っています。

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