サイクリーマンを読むサイクリーマンが、打ち切りと聞いて「げにあらん」と思った話

げにあらん。まあそうであろうなあという意味である。
サイクリーマン、本屋でたまたま見つけて手に取ったのだが初手からとんでもない方向に足を踏み外していて「これはアカン」と思い、作者は女性であろうことと、わりかし歴の長いサイクリストかな、というところに当たりを付けて興味本位で検索してみたらビンゴかつ「打ち切り」の報。

どうにもならなかったか、という感が否めない。

足を踏み外したとはどういうことなのか、詳しく書いていこう。

①自転車の埋もれ方
倉庫の中にアンカーのロードが埋もれるようにして放置されており、それを掘り出す展開からスタートなのだが、埋もれ方がホイールがブレブレになってそうな埋もれ方なのだ。
まずこのシーンを見て思ったのが、「この作者、もしかして倉庫整理をしたことがないような身分(というか泥臭いことをしないタイプ)だな?」ということ。
この時点で、おそらくこの先の展開は理想論でしか描かれないだろうな、というのが想像できたのだが、これが的中してしまうのである。しかも悪い方に。

②会社の上司と趣味の世界でカチ合うという展開
釣りバカ日誌を踏襲したつもりなのかもしれないが、ロード趣味のサラリーマンにとってこれ程恐ろしいことは無い。
できればというより絶対避けたい展開である。
何が怖いかというと、まず機材マウントを取られる。もしくは「お前は機材マウントを取っているのか?」というトラブルに発展する可能性がある。
これだけで十分に怖い。
次に脚力が合わない可能性がある。特に部下の方が脚力が上の場合、ほぼ間違いなくトラブルに発展する(ゆっくり走れ、もしくはお前は俺のことを敬っていないのか?など)。上司の方が歴が長い場合においては、部下にとっては何も楽しくない時間が発生するのは想像に難くないはず。
自分なら自転車辞めるね。
それをものすごくアクロバティックな展開に持っていこうとするものだから話の流れが不自然過ぎて違和感ばかりが残る。
まず上司と友達みたいに仲良くできないよ…。
そもそも趣味の世界で会社の人と仲良くできるならロードなんて乗らないよ。野球とかフットサルでしょ普通。
ロードに乗る中年ってもともと自転車競技部だったか、一人でライドしたいかのどちらかしかないでしょ。前者は以前からの人脈でチームに所属するだろうし、後者はボッチサイクリストになる。
そして、前者は圧倒的に少ない。
上記の通り、中年のロード乗りがみんなぼっちにしかならないのはこういう理由があるのに、ことこの作品ときたらまるで現実味がない。
読んでる方は「そうはならんやろ」のオンパレードである。
せめて内心で相手の心持ちの読み合いのような描写がもっとあれば、まあ共感したかはさておき、せめて不自然さはぬぐえたかもしれないのに。

③男性の立場が弱い
なんで旦那が稼いだ給料で自転車買ったくらいで家族にコソコソしなきゃいかんのだ。作中で「ママには秘密に」と娘に膝突いて懇願するシーンがあるが、この描写はどの層に向けてのアピールなんだろう。
自転車趣味が何か後ろ暗いかのような展開があり、これは誰得なの?という流れが続くのが見ていて辛かった。
縁故入社の縁故出世とはいえ部長クラスなのだからそれなりに身入りも良かろうに、たかだか50万前後のチャリ買うのにそんなに気を遣うだろうか?
作者はまず中年男性の現実が見えていない。
その時点でこの作品は見切り発車だったのでは。

思うに、作者はロードバイク女子。仲間がいて当たり前の環境で自転車に乗り、おそらく勤め人として圧にさらされることの恐怖も覚えたことが無いのでは無かろうか。
作風は爽やかでいいのにね…。中身がね…。違和感すごいのよ…。

一巻のこの三点だけで、作品として致命的に破綻していた。
珍しい(最近では珍しくなくなったのか?)ロードが主題の漫画だっただけに、惜しい。
もう少し歯応えのある読み物にできなかったものか…。

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