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11. 11月6日「メロンの日」


 漸くの日の目を見るブラウン系統の服達を部屋に干し切った。
 窓の外のしっかりとした暑さとその服達の合間に、秋めいた物がある筈なのだが、その間にあるのは先程落としたクリスマスケーキのチラシだけ。
 心の中にそれを探しても、モンブランしか出てこないその稚拙さに操られ、私はまたケーキのチラシをしっかりと見てしまっていた。
 フレグランスの充満に充てられて、それらが「モンブラン」という言葉に変換されて、私の口から出ていく。
 そう言えばと、私は昨日一日何も食べていない事を理由に、また計画にその名を付け加えた。
 
 私は家に居ると、思考がどうしても偏ってしまう。惰性という菌を体から撒き散らし、部屋中を菌床化させてしまうのだ。
 
 早く外に出なければ、今日をこのまま部屋で過ごす事になる気がして、私は急いで洗濯を終わらせた。
 
 扇風機をかけ、部屋の空気を撹拌する。
 その扇風機に操られ、ケーキのチラシがふわっと宙に浮かされる。
 すると、別のチラシがその下から現れた。
 
 それは、メロンが大きく描かれたチラシであった。
 
 「たまには、メロンクリスマスしよう」
 近くにある直売所からのチラシだった。
 私は、メロンでクリスマスを祝った事がない。次いで、その様な話を聞いた事も無かった。
 
 それはそれで成立するのか、とスマホで検索すると、サンタクロースメロンやクリスマスメロンという物が出てきた。
 チラシのメロンとは違う様だが、確かに存在している。
 
 私は、全く転がらない思考のクリスマスメロンを放置して、メロンとクリスマスのチラシをゴミ箱に捨てた。
 チラシより、思考のクリスマスメロンの方が、いつか使い道が見出せるだろう。
 
 私は甜瓜を思考に突つかせながら、「お腹空いた、モンブラン」と口にした。
 
 
 

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