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ありのままを伝えよ。

※この記事は,Nature Human Behaviour 誌が2020年1月21日に公開したEditorial(巻頭言) Tell it like it is を日本の社会心理学者3名が共同して翻訳したものです.

すべての研究論文は何らかの物語である。だが、その物語が「きれい」であるべきだという圧力は、科学的な努力にとって有害である。

研究論文は、研究者がどのようにしてリサーチ・クエスチョンに取り組んだか、そのためにどのような手続きを用いたか、何を発見したか、そしてその研究がどのようにして既存の仮説を確証(あるいは反証)したり、新たな仮説を生み出したりしたかを説明するものである。現在の研究文化には、「研究プロジェクトたるもの、曖昧さ、相反する結果、結論の出ない結果などの余地のない、決定的な物語として提示すべし」という大きな圧力が厳然と存在している。しかし、このようなきれいな物語を作り出そうとする圧力は、妥当性を大きく脅かすものであり、科学の真の姿とは逆行するものである。

研究という物語において透明性よりも確証を優先させることは、多くの「問題のある研究実践」-結果が明らかになった後で事後的に仮説を立てたり、当初予測を支持する結果だけを選択的に報告したり、矛盾したり複雑だったりする結果を選択的に報告しなかったりといった行為-を助長する。これらの実践は、研究の信頼性を損ない、その研究の実像を歪めることによって、結果的に知識の蓄積を妨げてしまう。

査読の際、査読者は時折、報告された研究を「再構成」するよう著者に提案することがある。これは探索的研究の場合には問題ないが、確認的研究、つまり既存の仮説を検証する研究の場合には不適切である。確認的研究の仮説や予測を事後的に変更することは、推論を無価値にし、研究を根本的に信頼できないものにしてしまう。このような再構成の提案は、良かれと思ってなされたものだとしても、我々は常にこれを却下し、著者には本来意図した通りの仮説や予測を提示するよう求める。

事前登録は、「問題のある研究実践」を防ぎ、透明性を高めるための手段として、さまざまな分野で採用されるようになっている。我々はジャーナルとして、確認的研究の事前登録を強く支持している(現在、臨床試験の場合には事前登録は義務づけられている)。しかし、著者が事前登録の通りに研究を遂行できなかったり、事前登録と異なる点やその理由を明確に報告しなかったりすると、事前登録の価値はほとんど失われてしまう。我々は、著者に対して、事前登録先のリンクを提出すること、事前登録の日付を明記すること、原稿の中で当初のプロトコルからの逸脱を明確に報告することを求めている。

時には、事前に登録されたプロトコルからの逸脱に妥当な理由がある場合もあろう。特に(Registered Reportsのような)研究実施前のピアレビューを受けなかった場合には、起こりうることである。例えば、事前登録された分析が不適切だったり、最適でなかったりすることが査読中に明らかになることがある。著者に対しては、事前登録されたプロトコルからの逸脱すべてについて、どのように当初の計画から逸脱したのかを原稿に明記し、その理由を説明するよう求めている(例えば、欠点があった、最適でない、など)。透明性を確保するために、事前登録された分析計画に疑いの余地のない欠陥がある場合を除き、著者には新しい分析結果と一緒に事前登録された分析結果も報告するようにも求めている。

場合によっては、著者は質の低さ以外の理由で、ある研究を報告から削除したくなることがあるかもしれない。あるいは、査読者がそう勧告することもありうる。たとえば、その研究の結果だけ、論文中で報告されている他の研究と一貫しない場合などである。しかし、我々はこうしたやり方を認めない。複数の研究から成る論文では、結果にかかわらず、実施したすべての研究を報告するように著者に求める。著者は、研究の一部が仮説を確認できなかった理由をあれこれと推測したり、結論に対する適切な注意喚起をおこなったりすることが必要になろう。しかし、研究を削除することは、単に「お蔵入り」問題を悪化させるだけで、研究全体の結論を実際よりも決定的であるかのように見せてしまう。

どんな研究プロジェクトも完璧ではない。常に限界があり、そしてそれをつまびらかに報告する必要がある。我々は2019年に、すべての研究論文に「限界(limitations)」のセクションを含めることを必須とした。このセクションでは、著者が方法論やその他の欠点を説明し、得られた結果の代替説明を明示することになる。

科学とはやっかいなものである。研究結果が計画や期待に完全に合致することはほとんどない。「きれい」な物語は、不適切な圧力とそれが生み出した文化によって作り出されたアーチファクトである。我々は、著者が何をして何を発見したかについて、透明性を保とうとする努力を強く支持する。たとえ「きれい」な物語ではなくとも、頑健で、透明性があり、適切に示されていれば、その研究を出版することを我々は約束する。

この記事は,3名の社会心理学者が共同して翻訳しました.私(三浦)のツイートを拾ってくれた樋口さん,どうもありがとう!!

樋口匡貴(上智大学)・三浦麻子(大阪大学)・藤島喜嗣(昭和女子大学)