故郷の桜を訪ねて
私は郊外の小さな団地で育った。
家の前の砂場にあったのは、3本の桜。
私は窓の手すりに干してある布団に頬杖をついて、
お花見をするのが好きな子どもだった。
干した布団の上で昼寝する飼い猫をみて
これが平和っていうんだろうな、と子ども心に思っていた。
夏には布団に毛虫が乗っていた。もちろん私の肩にも。
桜の木の下を通るときには叫び声をあげながら
ダッシュで通り過ぎたっけ。
夜中の台風。すさまじい轟音に目が覚め、カーテンの隙間から外を覗く。
しばらく眺めていたら1本の桜が風に耐えかねて倒れた。
ゆっくり倒れていく桜の姿に身体が凍った夏の夜。
ただただ、哀しく一人泣いた。
私と3本の桜はいつも一緒だった。
桜は私をいつも見守ってくれていた。
でも、その3本の桜は今はもういない。
故郷を離れて40年。
あたりはすっかり変わっていて、桜の木の下のブランコも、
お砂場も、広々とした芝生広場も思い出の中。
でも、家から少し離れた桜は私が来るのを待っていてくれた。
私と同じ還暦のソメイヨシノ。
細かった幹は太く大きくなり、私を包み込んでくれるような気がした。
さよなら、故郷の桜。
もう来ることもないだろう。
私の幼き頃の想い出とともに桜吹雪が空を舞う。
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