社会の窓を、こっそりと。

コラム:鎌塚慎平 / 絵・みきと 窓のからみたモノを題材に綴ります。 10日と20日に…

社会の窓を、こっそりと。

コラム:鎌塚慎平 / 絵・みきと 窓のからみたモノを題材に綴ります。 10日と20日に更新予定。

最近の記事

38階建てには夢があるか。

160mの高さから、真下を眺めたことはあるだろうか。 ぼくの住むまちは、人口200万人の政令指定都市だが、150mを超える建物は多くない。というか今のところ、2つしかない。山はある。でも、山から見る景色で、真下は見えない。ほぼ直角に見下ろす景色は、現代の特権なのだと思う。10年近く前に登った展望タワーは、ついこの間まで、このまち最上の特権階級だった。 夜景とは言えないくらいの、夕景のまちを見下ろす。国道5号線を、はたらくくるまが走る。その手前。ビルのふもとの屋外駐車場で、

    • こども部屋おにいさんは、自由である。

      実家はマンションの一階で、こども部屋の窓には、柵がついていた。二階より上には柵がなく、友だちの部屋が羨ましかった。窓を開けたら外に出れてしまいそうな、開放感が。 昔から禁止されることが嫌いだ。「しなさい」は平気だけど、「やめなさい」と言われるとだめ。カッとなるよりも、ぐつぐつと腸が煮えくり返る。選択肢を奪うな、と。本能で、反射で。込み上げた怒りは、目と口から飛び出したりする。禁止するな。ぼくは、気が向いたときにこの窓から飛び出したいのに。 かつて束縛の象徴に見えて憎たらし

      • たぶん知らない百六十円。

        お別れした恋人とのことを、あまりよく思い出せない。誕生日にくれたものとか、はじめて行ったデートとか、付き合うきっかけとか。けっこう何にも覚えてなかったりする。 車の窓から見えるワンシーンに、虚記憶が呼び起こされる。自販機の前でふたり、腕を組んで。帰り道のドリンクを選んでいた。550mlのペットボトルをひと口飲んで、そのまま彼女にわたす。彼女が返してくるボトルに、ぼくは右手でふたを閉めた。 信号待ち。すこし酔っていて、秋の風が気持ちいい。のどが渇いていたわけじゃない。酔いを

      38階建てには夢があるか。