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東京#14

夜の新宿駅東南口には雨宿りする人に溢れていた。
急な雨に佇む事しかできない僕は、壁に寄りかかながら、足早に歩く人々を眺めていた。
みんな、そんなに急いでどこに向かうのだろうか。
そして、僕は何処へ行けばいいのだろうか。
こういう時に限って、あの子から連絡はない。

彼女Aと最後に会ったのは今年の新年会だ。
どうでもいい二次会を抜け出して、
僕たち夜の街を彷徨っていた。
すっかり酔いは覚め、昔話に夢中なると、
「そんなこともあったね」と彼女は呟いた。
普段は強気な彼女も僕の前ではしおらしくなる。
そんな些細な事にも僕は気づかないフリをしていた。

どのくらい歩いただろうか。すごく遠くまで来たような気がする。ただ、心の何処かではもう終わりが近い事を感じていたら。彼女Aの家に着く。僕が別れの言葉を言いかけると「抱きしめて」と言われた。
その瞬間、彼女との思い出が駆け巡る。
初めてデートした日のことや、手を繋いだ時の柔らかさ、二人で見た花火、喧嘩した時の怖い目、そして別れた日の笑顔。
きっと彼女は僕を愛しすぎた。だから期待しすぎた。
「ごめんね」僕は潔癖すぎた。

ーーあの時、彼女は何を考えていたのだろう。
今となっては連絡もないし、連絡するのも億劫だし、
気まずいのも確かだし。
新宿に降り注ぐ雨は止みそうにない。
どうやら僕はもうしばらく、ここに留まりそうだ。

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