サブプライム問題と世界経済

「社会主義」2008年10月号(社会主義協会

                              北村巌

80年代からのバブル現象

今問題になっている米国のサブプライムローンというもの、もともと「貸してはいけない人に貸した問題」ということもできる。しかし、現在の米国、あるいはヨーロッパで起きている金融問題というのは、サブプライム問題というような狭い言葉で言えるような問題では、もはやないということがはっきりとしてきた。
 ヘッジファンド業界の大御所でジョージ・ソロスという大資産家がいる。彼はもともと10代でハンガリーからロンドンに移民して、さらに米国に移民し、証券会社のトレーダーなどをやりながら40代で自分のヘッジファンドを設立し、大資産を成した人物で、民主党の有力支持者でもある。
彼は今年初めに、「金融市場の新しいパラダイム」と題する本を出版したが、その中で今回の問題というのは単にサブプライム問題ではなく、1980年代からの大きなバブルのトレンドが変わったのだという主張を行っている。つまり、経済の枠組みが変わったのではないかと問題提起しているわけである。ソロスは基本的には80年代からずっと世界経済で起きてきたことは一種のバブルなのだと主張する。その途中で小さな波があり様々にバブルが弾けたというような状況もあったが、基本的に80年代から長期のバブル経済が続いていたとする。その長期的なバブルが今回の問題で終わった、そういう歴史的認識をしなければいけないということを主張している。興味深い主張だ。
ソロスは、原因をその資本主義の持っている性質、資本主義を支える金融に発生するリフレックスシビティであるとしている。これを筆者なりに解釈すると、自己増殖とその幻想といった解釈ができるかもしれない。ソロスはリフレックスシビティという問題がバブル経済の基底にあって、それが最終的に破裂したのだと主張しているわけだ。
筆者自身は、80年代からの大きな構造がこれで壊れたのかどうかは、事態の推移をもうしばらく見ないと判断しにくいと考えている。しかし、そうした問題意識をもって今回の金融危機を考えていく必要があるだろう。

米国の景気状況

まず米国の景気の現状をみてみよう。雇用についてみると、9月5日に発表された8月分の雇用統計で失業率が6.1%まで上がり、米国の雇用情勢が大きく悪化していることがあらためて浮き彫りとなった。特にサブプライム問題の発生により、住宅市場が低迷していることが不況の原因とされることが多いが、住宅投資そのものが減少しだしたのは、もう2年半前のことである。米国経済はゴールディーロックだと言われていた2006年の終わりぐらいだとか、2007年のはじめぐらいの状況の中でも、住宅投資というのは急速な減少を示していた。要するに、実物での投資としての住宅投資というのはかなり前から縮小していたわけだ。住宅投資はまだ減少過程だが、水準としてはこれ以上大きく減少することはないと思われる水準まできている。おおよそピークから半分になっている。
米国においてリセッションの定義というのは2四半期連続してマイナス成長とされていて、これはテクニカルなことでしかない。今のところまだリッセッションでないと言っているが、通常の景気循環の観点で考えれば、昨年の10-12月期か今年の1-3月期から不況入りしているという見方をすることができる。様々経済指標からそれが観測できるが、その中で直接的な要因は何かといえば、個人消費が大きく減速したことだろう。
今回の不況入りする前は、住宅投資は減少、設備投資はあまり力強くはないものの、まだ増加、個人消費も堅調と全体としてはうまくバランスしていると考えられていた。しかし、いよいよGDPの6割弱を占める個人消費のところが急減速してきたことが、現在の米国景気悪化の一番の原因といえる。
個人消費を落としているのは、フローの個人所得というよりも、住宅価格の下落による逆資産効果、あるいは金詰まりからきているということになる。それがサブプライム問題に由来するということで大きく問題として取り上げられるようになった背景だろう。

住宅バブルの実相

住宅市場の動向についてもう少し詳しくみていきたい。実物投資の住宅投資それ自体についてみると、2006年まで大きく増加した動きが逆転していて、現状足下では91、2年の頃の非常に低いレベルまで既に落ちているという状況がある。また、1時問題とされた住宅在庫は2007年までとかつてない非常に高水準であったわけですが、この1年程度で、改善しており、十分な在庫調整とまではいえないが、非常に過剰な状況ではなくなった。
しかし、住宅価格下落の状況は改善していない。図1はS&Pケース・シラー住宅価格指数、連邦住宅監督局が発表している住宅価格指数、消費者物価中の住宅賃貸料の動きである。連邦住宅局の価格指数というのは、以前より実態を表していないのではないかという批判があり、住宅バブルはもっと激しいのではないかというような問題意識がされており、そこでケース教授、シラー教授が提案した主要都市の実際の取引価格を調べてそれを合成する形で指数を作る方法が、S&Pという信用格付け機関による協力をえて合評されるようになったものである。これはかなり実態を反映しているとの評価が高い。

ケースシラー


ケース・シラー価格指数のうち主要10大都市、20大都市を比較すると特に大都市での上昇が激しかったということがここに見てとれる。逆に価格の暴落も激しく起きている。地域の特徴を見ると、ワシントンDCやニューヨークでも住宅価格上昇は起きたが、特に激しかったのがフロリダ、ラスベガスあるいはサンディエゴ近辺といった地域で、これらの地域でもっとも極端な上昇が起きた結果、極端な下落が起きている。
住宅価格のバブルの生成については、1段目、2段目を区別して考えるほうがよいだろう。第1段目のバブルの形成というのは、ブッシュ減税で所得税が大幅に減少し潤った高額所得者たちが、金利が非常に低いという状況下でヘッジファンドやプライベートエクイティファンドなどへの出資などを含め様々な投資を行い、その中で住宅への投機的な購入という選択肢も非常に活発化した。これが特にリゾート地のフロリダ、ラスベガス、サンディエゴ(オレンジ・カウンティー地域)やマケイン大統領候補の地元のフェニックスで現れた現象だった。日本のバブル期のリゾートブーム、リゾートマンションブームに類似しているが、それが実はバブルの第1段階だったということになるだろう。(図2)

サブプライム


2001年の9月11日の同時多発テロと言われる事件が起きて、米国経済がいわゆるITバブルの崩壊から、さらに深い不況に突入しているという状況があった。そうした状況で既にITバブルという形で株価の上昇、非常に大きな上昇が米国では90年代に起きていた。土地価格についてみると、住宅は大きくは上昇していなかったが、商業地の地価はかなり上昇しており、当時の問題意識として日本のバブル崩壊の二の舞にならないようにしようという意識があった。FRBは「日本の教訓に学ぶ」などという論文を2002年に出していた。政策として何が行われたのかというと、デフレを阻止するための速やかな大幅金融緩 和を行ったのである。
米国FRBの公式的な立場はともかく、実際の政策決定においてはグリーンスパン議長の指導の下に、資産価格動向というのは重視されていたのは明らかである。ITバブル崩壊が起きたときに、果敢に金融緩和を行った。この超緩和が実体景気にどのように影響したかをみると、既に過剰になっていた商業不動産市場などには刺激を与えることはできなかった。それまでの段階で、まだ過剰感がなかったのは住宅部門だったため、金融緩和は住宅市場に火を着けることになった。しかも前述のブッシュ減税との相乗効果もあって、高額所得者や資産家が、投機的な住宅投資を活発化する状況を生み出したということが言える。
住宅価格が上昇することでその資産効果が、個人消費の面でも増加を誘導し、さらにイラク戦争による需要効果があって、景気としては2003年から全般的な拡大が起きている。個人消費は中身を見ていくといわゆる金持ち消費が全体を引っ張ったという状況で、一般の勤労者の消費は停滞感が強かった。
徐々に景気拡大は雇用の増加に結びついていったため、一般的な勤労者の住宅取得というものも一定程度刺激され、それが実現するという形になったということは事実だろう。金融機関は、拡大する住宅ローン需要を満たそうとしたが、金余り状況はあったが資本は不足していた。グローバルな金融機関の資本に対する貸し出しなど資産取得の行動を規制しているのはBIS(国際決済銀行)である。自己の資本に対してどのぐらいのリスクをとっていいか。これはローンなどのリスクによっても区分けをした規制がある。住宅ローンは、比較的高い質のローンだと看做されているので、同じ資本額に対して増やしやすい対象ではあるものの大きく拡大した住宅需要を満たすには足りなかった。

問題を大きくした証券化

ここに登場するのが証券化ビーグルという別会社を使った方法だった。証券化ビーグルというのは何かというと、銀行のバランスシートの上に住宅ローンが載っていたら、当然銀行の資本の額でもってここまでしか量的に貸さないという規制に掛かる。そこで、住宅ローンを例えば銀行が貸す、あるいは住宅金融会社が貸すと。その貸した債券を証券化して、この証券化したものを一旦そういう証券化ビーグルが引き受ける。ここにはいろんな人から、特に機関投資家にも出資してもらう、銀行も出資する、証券会社も出資する、そうした形態で受け皿会社をつくって、そこで一旦受ける形を整えた。ここに銀行は資金供給するという契約をつける。引き受けた住宅担保証券をさらに細分したり構成を変えたりして証券化して機関投資家なり、他の世界中の銀行等に売却する。これらが正しく機能して証券化商品がすべて、機関投資家など最終投資家に販売しきれれば、仲介金融機関は確かにリスクを負わないのでいい。銀行の健全性だけの観点からいえば別に問題はないということになる。しかし、現実には銀行も在庫を相当持つということになってしまった。しかし在庫は証券化ビークルにあり、銀行のバランスシートとは離しているからいのだという論理がまかり通った。銀行の資本が少なくても住宅ローンを急速に拡大できてしまった。銀行や証券会社は、証券化を行う段階で手数料という形で収入を得ることでビジネスを拡大するビジネスモデルであった。ここに大きな問題をはらんでいたのである。
さてバブルの第2段階はどのような姿だったのか。景気が拡大にともないもう資産デフレの心配が減ってきたという状況下でグリーンスパン議長も利上げをする方向に決断をして、公開市場委員会1回ごと、つまり5週間に1回ごとに0・25%ずつ利上げを行った。これで必ず金利は上がっていくという期待が生まれる。潜在的な購入希望者は利上げが行われて金利が上がる前に住宅を買いたいという焦燥感をもった。賃貸料が着実に高いペースで上がっていったということも理由の一つで、要するに今後もどんどん上がっていく賃貸料を払うよりは、金利が低い時期に買ったほうが良いだろうという焦燥感があおられた状況が起きた。一方、前述の投機的な資産家の購入はここで一段落してくる。住宅販売業者のもとで在庫が増え始めるということが起きていた。住宅販売会社としては、この在庫の増加を食い止めるために販売促進策をとらなければならなくなった。この住宅販売側の焦燥と購入希望者の焦燥によってローンの拡大はむしろ中低所得者に向かったわけである。
こうした状況下で証券化ビーグルが大きく機能し続けて、いわゆる悪質な貸付を拡大する機能を果たしてしまった。米国の場合も銀行の窓口へ行って住宅ローンを借りるときは日本と大きくは違わない手続だが、銀行とは別に住宅金融会社というものが大きく拡大していた。カントリーワイド(今年初めに倒産)など大手の金融住宅会社が急成長していて住宅ローンを住宅購入者に貸し付ける。手数料ベースでブローカーを雇って、貸し出しを拡大し、それを証券化する。証券化して証券化ビークルに売却すれば住宅金融会社そのものはリスクを大して負わなくてすむビジネスモデルであった。モーゲージブローカーは誰かが借りてくれればよく手数料を受け取れればよい。そして、住宅金融会社が拡大のために異常に貸し出し基準を落とした。住宅金融会社は、実際にはその地域においては住宅販売会社と提携関係にある。例えばマンション開発したが在庫が残った。これ何とかしようよとするときにキックバックするから住宅金融会社でよい顧客を探して売却できるようにといったスキームがあった。そうすると、本来は売却できないような顧客、所得水準などからローンを返せる見込みが少なく、危険性がかなり高いけれども実行していった。
一方、ノンプライム(サブプライム)は返済能力の低い人向けへの貸し出しだが、住宅価格が上昇を続けていれば元本確保ができるということになり、そういう甘い見通しのもとにプライムと組み合わせた証券化商品は比較的高い格付けを得られた。これを証券化ビークルが購入する。証券化ビークルはこうした担保証券のプールを作ったうえで、それを元本返済の優先度の高いもの(シニア)、中間的なもの(メザニン)、劣後するもの(エクイティ)に組みなおして機関投資家などに販売するといったことを行った。
シニアは、例えば住宅価格が半分になっても返せるという見立てになるので格付機関は、過去のデータを検討しても非常に信用力が高いということになり最高の格付けトリプルAをつける。要するに、国債と同じ格付をつける。そうなるとトリプルAの証券ですから機関投資家や金融機関は安心して購入する、国債より若干金利がプラスとなるのでそこに資金が集まるという仕組みが出来た。 メザニンやエクイティも、結局、米国では住宅価格はあの大恐慌以来下がったことがないという実績からヘッジファンドなどがその高い利回りに惹かれて投機的に購入する。
 こうしたビジネスモデルで、実は証券化ビークルで大きな利ざやが稼げた。なぜかといえば格付けが複雑化した証券化商品になるとトータルで上がってしまうということが起きていたからである。価格変動を相殺するような組み合わせを行うので、その分、格付けを上げられるという論理で正当化していた。
 しかし、それは錯覚だった。今回起きたことは、図3にみられるような2002年の不況あたりで起きた状況をはるかに超えて延滞や差押えが発生したことであり、下がらない前提だった住宅価格が大きく下がり始めたことである。しかも、比較的まだ米国景気のよかった2007年の段階で、そういう状況にまで陥ってしまった。2006年とか、2005年の後半に貸し付けられた貸付の中身がかなり悪質だったということになる。FBIは詐欺的な貸付を行ったということでモーゲージブローカーを約450人逮捕したと報道されている。
 民主党はしょせん資本主義リベラルにしかすぎないといっても、差し押さえで家を失う困窮者対策を行わないとリベラルにもならないから、借り手救済の措置を提案、実行してきた。そのため、州ごとに事情を異なるが、貸付側のほうの債権をなにがなんでも保全するという立場になっていない州が多い。民主党が知事、議会多数の州は、州の法律で可能なので規制をかけて、ゲームのルールを変えている。これも貸し手からするとローンの前提が崩れ、その価値が下がる原因となった。つまり、延滞が半年になったら差押えをして即競売にかけると。だから担保は回収できると思っていたのが、政治がそこに入ってきたことによって、それが困難になった。ずるずると住宅価格が下がっているので、損が大きくなっていくということになる。
 そして証券化商品の価格というものはすでに発生した損失ではなく先行き発生するだろう損失を価格に反映させていくことになるので、証券化商品を保有している金融機関や機関投資家はその価格下落を評価損として計上して処理しなければならない。その額が大体100兆円ぐらいになってきそうだ、と見込まれている。

ついに公的資金投入に追い込まれた米国政府

現在、米国金融市場の一番の焦点になっているのは、いわゆるGSE(政府支援機関)と呼ばれる機関の問題である。民営化され株式を上場する一方で、政府機関として財務省は役員の半分を選べるため、半官半民といえるのかもしれない。ここが発行する債券には、正式に政府保証は付いていないが、実質的に政府保証だということになっており、BISの規制でも特別な扱いがされている。
今回問題なのはその中でも2つ、ファニーメイとフレディマックと呼ばれている連邦住宅抵当公庫と連邦住宅貸付抵当公庫とである。現在の金融問題が「サブプライム問題である」と言われている時期に、全く問題視されていなかった。この2つの機関はサブプライムローンを一切扱っていなかったからである。2機関はプライムローンだけを購入して、それを証券化して、機関投資家に売却売るということでやってきた。景気が悪くなってプライムの延滞率や差し押さえ率も上昇してきたこと、住宅価格も下がりはじめて、プライムローンだって危ないのではないかという形になってきたから、政府支援機関にも問題が波及してしまったのである。
2機関の株価は大きく下がっている。これは「ファニーメイやフレディマックを問題の解決の中心に据えなければいけないだろう、おそらく政府は、そうするともう一度国有化する、国有化するのだったらば株主責任は問われる」という観測が広がったためである。株主責任を問うということはつまり無償、国有化ですから、ゼロになってしまう危険性が非常に高まった。一方、債務については政府が、これまでの暗黙の政府保証でなくて、完全に政府保証するという構図になる。日本の機関投資家に米国財務省が2機関の債券は安全だと説明したのはその証である。米国政府は両社の一時的な国有化に踏み切らざるをえなくなった。
民間大手金融機関では3月に第5位の大手投資銀行(証券会社)ベアスターンズが破綻同然となりJPモルガンに当初資金供給の支援を受け最終的には買収救済を受けた。FRBは「秩序ある金融市場の機能を維持するため必要な流動性供給を行う」とし、ベアスターンズとJPモルガンによる資金供給アレンジを理事会が全会一致で承認したと発表した。公定歩合による連銀の窓口貸し出しは預金金融機関でなければ受けることが出来ないため、流動性不足に陥ったベアスターンズへの資金供給を預金金融機関であるJPモルガン経由で行う、という方法がとられている。その後、FRBは国債を直接引き受けできるプライマリーディーラーと呼ばれる大手投資銀行には直接資金供給ができるように制度を改正した。またこれらの金融機関に対し株式を空売りして危機をあおる行為が一時的に禁止された。本来FRBが緊急的な資金供給を行うのは、本来は決済システムの崩壊を防止するためであり、ゆえに預金金融機関に対して行われるのが建前である。今回の声明では「秩序ある金融市場の機能を維持するため必要な流動性供給」としており、決済システム防衛という狭い立場ではなく、「秩序ある金融市場の機能の維持」というより広い立場を採用している。
こうした政策が「個別証券会社の救済」ではないことは9月の投資銀行第4位リーマンブラザーズの破綻にともなって示された。リーマンブラザーズも流動性危機に直面したのだが、可能な限りでFRBによる資金供給は行われていた。結局、増資や救済合併に失敗し破産法の適用を受ける道を選ばざるを得なかったのである。1方、第3位のメリルリンチはバンクオブアメリカによる買収(実際には合併というべき)の交渉が成立し破産を免れることとなった。
これにより投資銀行業界には第1位のゴールドマンサックスと第2位のモルガンスタンレーしか大手は残らないこととなった。山一證券や長期信用銀行、北海道拓殖銀行が破綻し、金融再編が進んでいった10年前の日本を髣髴とさせる。
個別大手金融機関の問題としては保険最大手AIGの問題が残されており、これは同社が大きなシェアを占めている医療保険など及ぼす問題で、大統領選挙にも影響を与えそうだ。
さらに米国内では地方銀行など地域金融機関の問題は山積しており、大手銀行といえども資本増強は道半ばであり、今後も金融業界の再編は大きく進んでいかざるをえないであろう。昨年まで国際的な大型の金融再編がプライベートエクイティファンドなどを利用しながら進められていたが、昨年8月以降、金融危機の中これまでのスキームがうまくいかなくなり一時中断している。欧州の金融機関も大きな危機に直面していることは事実であり、流動性危機が落ち着いてくると再編はいっきに加速してくる可能性が高い。

金融規制は強化の方向に

証券化商品の格付の問題については、今年に入ったあたりから政府当局になんらかの規制強化を行わなければならないとの動きが強まってきた。これについては国際的にも取り組みがされている。6月11日にSEC(証券監督委員会)が新しい規則案を発表していて、この線でもって大体他の国の規制も決まるという状況が見えてきた。
格付機関はどのように収益をあげてきたのか、発行者側、つまり格付をしてもらう側から手数料をもらって格付を行っている。買う側から手数料をもらって格付をするわけではないので、買う側の立場に立っていない。買う側もそうした事情はわかっているはずではあるが、格付け機関の権威に頼って運用するほうが容易だ、という事情があった。発行側から手数料を取ること自体はやめさせられないが、少なくとも例えば、発行者に格付についてのコンサルティングまで行って、それに従えば高い格付をつけられるといった方法は禁止されることになるだろう。これは根本的な利益相反問題の解決ではないが、極端なものを廃止させようとする動きである。また社債と同じトリプルAとかダブルAとかいう表現をやめさせようという提案もある。トリプルAとかダブルAという表現は、普通の社債などに対する表現として、あるいは多分外国の政府が発行する国債、例えばニューヨーク市場とか、ロンドン市場で発行する国債に対して付ける。そもそも証券化商品は債券とは違うもの種類の資産なので、おのずとリスクを社債とは簡単に比較できないだろうということである。そもそも格付けの名称が同一なので、例えば年金基金として運用方針として債券運用のうち7割をトリプルAの資産とすると決めると、その枠でトリプルAの証券化商品も購入していた。証券化商品にはトリプルAという表現が使えなくなると、運用者はもう一度原点に帰って証券化商品のリスク判定をし、運用方針を決めるようになるだろう。

世界経済における貨幣資本の過剰

結局問題の本質は何かということを考えていくと、こういうような悪質なスキームを使ってまで貸付をやっていくという形で貨幣資本を回さなければならないほどに、金融的な蓄積が過剰になっていたという世界経済の問題として大きな不均衡がある。それはとりもなおさず実物投資の収益機会が狭隘化していたところに発している。そうした状況を変える資本のフロンティアとしていわゆるエマージングマーケット=新興国の経済成長というものが資本を吸収してくれるのではないかという期待はあった。実際に新興国への先進国の対外直接投資は活発となった。ところが高い経済成長している中国は、自身が世界に対する金融資本の出し手になった。ブラジルなども資源価格が上昇したことによって出し手の側になっていった。結局、新興国の経済成長が過剰資本のはけ口にはならなくなった
2007年の前半まで、つまりサブプライムローンの損失を償却するまでというのは、米国の金融機関は非常に高い収益を実現しているという錯覚があった。よく考えてみると、引当不足であったわけだから、損失を遡及して引き当てと考えてみると収益率はまったく低いものだということになる。低下する利潤率をマクロ的に粉飾する仕組みがバブルだといってもよい。
金融の制度的問題、つまりこれから資本主義は資本主義で続いていくかもしれないけれど、枠組みはちょっと変わる方向にあるのではないか、潮目が変わる方向にあるのではないか。大恐慌のときに何が問題にされたかというと、銀行業と証券業が一体になっていることが問題だとされた。証券業と銀行業を分けるということで金融を制御していくというほうがいいのだという共通認識が生まれた。それが不換通貨制度のもとで恐慌は起こらないという認識が広がりヨーロッパはかなり前から銀行に証券業を兼業させるようになった。米国もそういう方向に移ってきて、一応形式上はまだ証券会社という分類と銀行という分類があるものの銀行が持株会社によって証券会社を子会社として持てるようになった。日本も同様である。
現在の危機への対処の中では大手銀行による投資銀行の救済合併という形が現れており、巨大ユニバーサルバンクは米国でも強まりそうである。グローバル化の中で寡占の方向に解決を見出すしかない現代資本主義の現実だ。しかし、金融における規制を組みなおしていかざるを得ないとすれば、単なる自己資本規制の強化や商品設計に治するテクニカルな規制の強化に留まらず、こうしたユニバーサルバンク化についても反省期に入っていくのではないだろうか。

 


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