(メモ)全要素生産性

 「全要素生産性」は、文字通り、「すべての要素」を抽出してみた時の生産性という意味を持った経済学用語。労働力や使用する生産手段の増加以外の要因で生産が増大することを指し、広義の技術革新と認識される。
 ふつう、生産性というと、労働生産性を指すことが多い。労働生産性とは、どれだけの労働力が使われたらどれだけの量の生産ができるのかを示す指標で、生産額ないしは付加価値額を労働力の投入量(総労働時間)で割った指数であらわされる。たとえば、製鉄業のような原材料やエネルギーの使用が大きい生産部門と、そうでない部門(たとえば介護などの福祉サービスなど)を比較したい場合には、そうした費用を生産額から差し引いた付加価値額を分子とした生産性を計算して比較する。ただし、ここでいう付加価値額はマルクス経済学でいう価値ではなく、国民経済計算(いわゆるGDP統計)でいう付加価値額(単純化すると販売価格-雇用者報酬以外の経費)である。
 労働生産性が同じで、使用される労働力が増加すれば、実質の付加価値額も増加することになる。一方で、労働力の投入量が同じでも使用される生産手段が増えることで実質の付加価値額が増えることがある。
 また、労働力や生産手段の量が変わらなくても、生産技術の進歩があって、それ以前の技術のもとで起きる生産量の増加より大きな増加が得られる場合もある。この場合は、労働力や生産手段の他に生産技術の変化が生産量の増加をもたらしたと考えることができる。たとえば、1000個のある商品を生産するのに10人が1日働いて1億円の機械が使用されていたとする。この機械が1億円のロボットに置き換えられ、労働力の投入は変わらないまま同じ商品が1500個生産されるようになったとすると、ロボットの導入という生産技術変化が生産量の増加をもたらしたことになる。こうした効果を「全要素生産性の上昇」と呼ぶ。
 生産技術ではないが、労働組織を変えることによって生産性が変化することもある。事務的な部門やソフト開発的な部門では、組織のあり方、分業の仕方を変えることで効率が上がることが多いといえる。経営者側は、これを組織革新(オーガニゼーショナル・イノベーション)といった言い方をして正当化する。こうした生産技術や組織の変化は、労働時間は変わらなくても労働の強度を強めることがあることには注意すべきだろう。
 また、生産物の価値という点で見ると、機械などの生産手段の減耗分が不変資本の価値として生産物に移転される。投下される生産手段の価値額が同じであれば生産量が増えても生産物全体の付加価値には変化がないので、生産物の単位あたりの価値は低下し、価格も低下することになる。この数十年、電機製品などは、この効果でかなりの価格低下が起きた。
(2023年6月20日)

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