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(メモ)円安をどう見るか

円の実質実効為替レートが1972年以来の低水準に陥ったと報じられている。それを円の「実力」が落ちたというように報道する向きがあるが、実力という言葉をどう捉えるかにもよるものの、これはミスリーディングなのではないかと思う。

実質実効為替レートというのは、主な貿易相手国との間での為替レートを相手国との貿易額のウェイト付けを行って購買力平価(物価の比)との相対関係を見たものである。具体的には次のような算式で算出される。
実質実効為替レート=名目実効為替レート/購買力平価
*名目実効為替レート=相手国との貿易額でウェイト付した為替レートの指数
*購買力平価=相手国の貿易額でウェイト付した生産者価格指数の比

この式からもわかるように、実質実効為替レートが安いというのは相対的な購買力に対して実際の相場が安くなっているということで、「実力」の話ではない。通貨の「実力」を相対的な購買力=購買力平価、あるいは通貨価値の安定度と捉えるならば、真逆の様相となる。名目実効為替レートと実質実効為替レートの比をとれば、購買力平価(指数)の動きを捉えることができるので、それと名目実効為替レートを比較してみよう。

上のグラフにみる通り、日本円の購買力平価指数は着実に上昇を続けている、つまり貿易相手国との比較で見て、インフレがなく通貨価値がより安定しているということである。それに対して、長期的に見ても実際の為替レートというものは上下変動をしてきた。80年代の前半までは円が市場では安くおかれ、プラザ合意を機に今度は実力以上の円高に人為的に高められた。現在は安倍政権の経済政策のもとで始まった円安政策が継続しており、円安状態が続いているとみるべきだ。

昨年(2021年)10月以降の円安傾向は、欧米の長期金利の上昇で内外長期金利差が開いたことが主因であろう。米国の10年国債利回りはこの半年で1.2%から1.9%へ0.7%ほど上昇したが、日本の10年国債利回りは0.0%から0.2%へ0.2%ほどしか上昇していない。日米長期金利差は1.2%から1.7%へと拡大したわけである。直近ではウクライナ危機もドル高要因となって円安につながっている。

リーマンショック以降の為替相場を見れば、市場において経済的なリスク感が高まる(リスクオフ)と円が買われて高くなり、安定感が強まる(リスクオン)と円安になるという繰り返しが起きていた。また軍事的な危機の場合にはドル高になる傾向がある。今の状況はコロナ禍から世界景気がまだらながら回復した安定感があるところにウクライナ危機が発生したという状況で円安になる条件が揃っている。
経済的リスク感が高まると円高になるのはなぜか?一つには現在でも経常収支黒字が大きく対外純資産も大きい日本からの資金流出が、リスクが高まれば止まり、安定してくれば流出が進むという関係にあるからだ。もう一つは、円が主要通貨の中で最もインフレ傾向が小さく、物価が安定しているという事情があると思われる。

現政権が円安政策を続けるのは、いまだに輸出依存で景気回復を図ろうとしているからである。貿易収支が大幅な黒字であった時期には、マクロ経済にとって円安はメリットの面が大きかったが、現在のように貿易収支がトントンであれば、デメリットも大きくなる。とりわけ一般消費者には負担が増え、内需型産業には不利益、逆に一部の輸出企業、多国籍化した大企業だけが儲かるという問題につながっている。
現在の過度の円安政策はやめ、超金融緩和政策を緩やかに修正することで、為替レートを正常な方向に戻していくべきであろう。

(2022年2月18日 記)

(追記)
グラフの指数は日銀の発表している2010年=100の指数なので、購買力平価の水準を示すものではない。実際の水準はこれよりも10%程度円安の水準にあると推定される。



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