二度目の正直-山一証券の破たん

「まなぶ」1997年12月号(労働大学出版センター
                             北村 巌

 今回、山一証券が「自主廃業」を申請しました。われわれ労働者にはあまり縁の薄い証券会社とはそもそもどのような業務を行っているのでしょうか。


 証券会社は読んで字の如く、証券を扱う金融機関の一種です。証券というのは正確に言えば、有価証券であり、証券取引法で決められた株式、債券などを指します。これを扱うことで利益をあげるのですがその業務は大きくわけて四つになります。売買業務、ブロ-カ-業務、引受業務、販売業務です。売買業務(ディ-リング)とは証券を取引所などで売買することですが、日本の場合、債券の売買益が大きくなっています。ブローカー業務とは顧客の注文によって取引所などで証券を売買することです。これについて手数料を受取り証券会社の大きな収益源です。引受業務とは、証券を発行する主体(国債なら、 社債、株式なら企業)から委託されて、証券の発行を円滑に進める業務です。このために、いったん証券会社がこれらの証券を発行時に取得することもあります。これについては発行側から手数料を受取ります。販売業務とは、投資信託を販売したり、引受けた証券を販売したりする業務です。これまで、こうした業務の手数料は固定制で保護されてきました。 証券会社本体だけでなく、その関連会社の業務として、投資信託の運用を行う投資信託委託会社や、顧客資産の運用を行う投資顧問会社というのもあります。これらは手数料や成功報酬による会社経営になっています。

 山一は2600億円にのぼる簿外債務があり、それは”飛ばし”でできたそうですが。簿外債務というのは、帳簿外、すなわち帳簿がうそだったということです。粉飾が行われていたということですね。

 山一証券の場合、この隠れた債務を作った損失は、”飛ばし”と呼ばれる取引から生まれました。”飛ばし”というのは隠語ですが、表に出さずに関係者の口約束で投資の損失を表面上は出さずに株式などを転売していくことを指します。

 山一証券はかつては業界1位の会社で、上場企業との関係が深く、引受業務に強い証券会社でした。このため、上場企業との関係を維持するために、本来やってはならない株式投資での利回り保証をやっていたのです。基本的に上昇が続く相場でしたらこれは大きな損失を生んだりはしません。おそらく八九年当時利回り保証した営業マンも損しても、一、二割と思っていたでしょう。ところが、90年の株式暴落は平均で50%の規模でしたし、更に92年夏までの下落では60%の下落に達したのです。この予想外の事態に「利回り保証」の持つ意味はそれまでと全く変わってしまいました。山一証券は事業法人顧客の損をかぶることになってしまたのです。こういうことが、もし表で行われていれば、当然オプションなどを利用して損失をヘッジすることも可能ですが、それもかなわず投機の失敗のつけを負ったわけです。

 これをいつまでも簿外にしていたのは、そうでないと証券会社の財務上の健全性の規制にひっかかり、営業を続けられなくなるからなのです。山一証券は1965年にも危機に落ちいた事があり、このときは日銀の特別融資で助かりました、今回はそうした救済はなく事実上、不正の発覚が会社をつぶしてしまたのです。経営者の責任は重大です。

 山一証券の破たんで店頭には顧客が殺到しましたが、預けている証券はすべて分別管理されていますので返還されないことはありません。しかし、売却代金などが口座に残っていた場合は、問題ありです。今回、精査した結果、山一証券が債務超過であったら、山一証券の発行した社債などの元金は戻らなくなってしまいます。さらに顧客から預かった現金なども返せないことになったら、寄託証券補償基金という業界で作った基金からお金がでることになっていますが、これは三洋証券の破たんでほぼ使いきってしまっていますので、早急に対策が求められているのです。現在、公表されているように山一証券が債務超過でないのならば問題はありませんが、いづれ、他の証券会社の破たんが起きれば問題になることです。


山一証券のみならず、他の証券も危機が伝えられています。これからどうなるのでしょう。

 山一のような飛ばしの実態があるのかどうか、是非、精査して公開して欲しいと思います。大規模な飛ばしの実態があれば、その証券会社は営業を続けられなくなるでしょう。これまで、大蔵省は業界と癒着しており、本気で検査を行ったのか疑問なところがあり、第三者的な機関が責任をもってきちんと検査する体制をつくる必要があります。また不正があった場合徹底的に責任が追及されるべきです。

 証券会社の経営危機は、手数料自由化が行われていく来年度以降、中小証券を中心に表面化するでしょう。これまでのような営業のやり方では、手数料の低下のなかで構造的な経営不振に陥る可能性が高いと思われます。結局、一握りの大証券と銀行系の証券会社、外資系の証券会社が市場を制していくでしょう。中小は大幅な首切りをやって営業部門をもたずにただ顧客の注文だけをこなすディスカウントブロ-カ-のような経営でしか生き残れないと思われます。

 証券会社はこれまでかなり営業部門に人員を配置し顧客を勧誘するコストをかけて手数料を稼ぐという体質でやってきました。しかし、手数料率がさがればそんな人件費コストを掛けているわけにはいきません。注文を執行する費用、情報料、アドバイス料というふうに証券会社の収益源も変わっていく必要があります。

 金融システム改革で、ますます大資本というより業界トップの資本に有利な体制ができており、日本の金融業界は外資系との激しい競争を展開しながら、寡占化に向かっていくでしょう。


月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう! 目次

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