東日本大震災と政策課題

「社会主義」2011年7月号(社会主義協会
                              北村 巌

震災前の日本経済の動向
 東日本大震災前の日本の景気動向から振り返ってみよう。
 日本の景気は世界景気が新興国の成長に牽引されて拡大基調を保つ中、リーマンショック後の不況から概ね緩やかな回復過程を継続していた。鉱工業生産指数(2005年=100、季節調整済み)でみると、若干の上下はあるものの、2009年2月のボトム71.4から徐々に回復しており、2011年2月は97.9へと2年間で37%の回復となっていた。ただし、2010年初までは急回復したものの、その後の回復は緩やかなものであった。リーマンショック後、欧米向け輸出に代わり、主にアジア向け輸出の増大に支えられて生産が増加したものの、2010年後半以降の円高で勢いはかなり殺がれた状況であった。
 輸出総額(季節調整済み値)は、2009年2月の3兆7431億円を底に、2010年4月5兆8725億円まで回復したが、その後は微減傾向になった。ピークは2008年3月の7兆4208億円であったから、世界経済の実質GDPが最高額を更新しているにも関らず、日本の輸出はそうした動きにかなり遅れをとっていることになる。
 そうした輸出環境をうけて、日本企業の国内設備投資は底打ちしたものの本格的な回復の動きには入ってこなかった。むしろ中小を含め日本企業は、円高の状況の中で賃金が安いアジア新興国を中心に生産拠点を移動させる動きを強めてきた。これも国内設備投資がはっきりとした拡大方向に転換してこなかったひとつの要因である。
 ただし、円の対ドル相場が大きく上昇したことは確かだが、同時にアジア各国などの新興国の通貨も対ドルで上昇しており、円の実質実効レート(貿易額でウェイトづけし物価水準を考慮した通貨指数)が大きく上昇しているわけではない。2005年の平均を100とする指数で、2011年4月の実質実効レート(日本銀行発表)は97.73であるから2005年と比較してむしろ若干低下しているといえる。つまり、円高だけでは輸出の不振を説明しきれない。日本製品は高級品が多く新興国の需要にマッチした製品供給が立ち遅れた結果だという見方も有力だろう。
海外立地に関しては、中国が賃金上昇によって低賃金国の魅力は徐々に失われてきており、生産拠点というよりも販売先としてみるように変わってきている。労働集約的な多くの企業は生産拠点をベトナムなどに移動している。景気の改善で企業の収益は増加したが、その再投資先は国内から海外へシフトしており、国内設備投資の本格的回復につながらなかったわけである。そのため、製造業の生産能力指数は2010年10月以降は横ばいとなっていた。
とはいえ、循環的な景気という観点でみれば、日本経済は不安定で力強さを欠きつつも、改善の傾向はなんとか継続してきた。

東日本大震災による景気への打撃
東日本大震災は、上記のような日本の景気動向に大打撃を与えた。直接的に被災企業の生産がストップしてしまったことに加え、交通の麻痺も加わって被災地域からの部品供給が行えなくなったことで、その川下にある産業、特に自動車産業や電機機械産業で生産が大きく削減されることになった。いわゆるサプライチェーン問題の発生である。宮城県北部から岩手県南部の北上川流域には自動車部品産業の集積が意図的に行われてきた。この地域では地震の被害そのものは大きくなかったが、交通路が遮断されてしまったことで、中部地方や北関東など他地域の組み立てなど川下への部品供給がストップしてしまった。また福島県も電子デバイス工業が盛んであるが、震災の直接的な被害というよりも原発事故の発生により、大きく供給が削減されてしまい、この地域からの部品供給に頼っていた電気機械産業も生産が大きく削減された。例えば、南相馬市の場合、地震津波被害は沿岸部で大きく多くの人命も失われたが、内陸部に位置する地元電子デバイス等の工場の被害は早期に回復可能なものであった。しかし、福島原発事故により、工場の立地している地帯が30キロメートル圏内であるために、多くの住民が避難することとなり、事実上操業が不可能になってしまった。現在、緊急時避難区域では、子供や母親の域外避難を続けつつ、徐々に生産活動が再開されているようだ。
今回、サプライチェーン問題として大きくクローズアップされたのは、どんな工業製品は必要な1種類の部品が欠けても生産はできなくなるということである。川下企業は調達先についてリスク分散の観点から複数化していたものの、その先の部品調達では、結局1企業に依存していたという例が数多く出てきた。日本の製造業の下請け、孫請け、曾孫請けといった中小零細企業への多重の搾取構造がその弱点を露呈したのである。
鉱工業生産指数でみると、震災が発生した3月は2月に比べ15.5%もの大きな落ち込みを示し水準としては82.7となった。リーマンショック後の71.4に比較すれば高いものの1ヶ月での落ち込みとしては非常に大きく震災がサプライチェーン問題を通じて日本全国の生産活動に大きな影響を与えたことがわかる。4月は83.5と若干の上昇がみられたが、生産再開が多くの地域・産業で容易ではなかったことを示している。とりわけ自動車産業におけるサプライチェーン寸断の打撃は大きかった。国内の生産だけでなく、国内企業の海外生産や海外企業の生産にも大きな影響を及ぼした。3万点といわれる部品のうち最後の1個の供給が確保されなければ全体の生産が再開できなかった。
しかし、鉱工業生産については急速な回復が見込まれている。4月指数の発表時(5月30日)に5月および6月の見通しが発表される。これによると、5月は前月比8.0%、6月は前月比7.7%の増加の見通しである。交通網の回復にともなってサプライチェーンが修復されつつある状況を示している。見通し通りに生産が回復すれば6月の鉱工業生産指数の水準は97.1まで回復することになり、これは2月の水準にほぼ匹敵する。潜在的な需要は高いままであったので、供給サイドさえ回復すれば生産の回復は容易であった。多くの企業が4月時点で想定した生産回復よりも早いピッチで生産回復が進んでいると報道されている。
大震災によって輸出が大きく削減されたことに伴って貿易収支の赤字化が起きている。日本の貿易収支(季節調整済み値)は3月は14億円まで黒字が縮小し4月は4963億円の赤字に転換した。原数値であるが、5月も上下旬で昨年同期より7000億円以上赤字幅が増加しており、5月貿易収支の季節調整値も大幅な赤字になることはほぼ確実である。6月以降、自動車などの産業で輸出向け生産がほぼ回復すると見込まれているため赤字は減ることになると思われるが、再び貿易収支が黒字回復し、それが定着するかどうかは輸出にかかっており国内の輸出向け生産の回復と海外需要動向の双方に依存しはなはだ不透明だ。
 また、今回の震災を転換点にして、デフレ的だった日本経済にインフレ傾向が生まれる可能性はある。今回の生産の落ち込みが主に需要不足や過剰ストックの問題ではなく、供給力側の問題であったからで、財・サービスの需給がこれまでよりタイトとなってきている。原発事故問題からくる電力の供給不足も連鎖的に様々な財・サービスの供給を制約する可能性があり、しかもこれは電力供給が回復するまで長期間続くだろう。
 原発事故被災者への補償財源、今後原発を前提しない電力確保策を追及するとすれば、電力料金の値上げは避けられない。どのような料金体系を構築すべきか(後述)は階級間利害の問題になるが、全体として電力料金をあげなければならないという事情はあり、これがコストプッシュ的に財・サービスの価格全般の上昇への転換のきっかけとなる可能性があるだろう。
 しかし、実際に継続的なインフレとなるかどうかは需給関係だけでなく金融政策の採り方にも依存する。デフレ的な環境が続く限りは相当な金融緩和姿勢が続くと仮定すると、いずれかの時点でマネーストックの供給が加速しインフレ傾向が生まれることが予想できる。バブル崩壊以来のディスインフレ傾向に終止符が打たれる可能性もある。

復興需要と供給制約
 震災被災地の復興に関連する需要が日本経済を好転させるとの見方がある。多くの外人投資家はそうした見方から日本株式の購入を進めているというのも事実である。今後の財政措置の規模にもよるが、住宅やその他の社会インフラ、産業インフラ投資は不可欠であって、その大部分は建設需要として顕在化するはずである。
 今回の震災ではまだ精査されていないがおおよそ20兆円程度のストックが失われたと推定されている。これは住宅、企業設備、港湾、道路、鉄道などの損壊部分を金銭価値に換算したものであるが、復興にはそれ以上の資金が必要になる。現在の資本主義経済の中で、企業設備をはじめこれらのストックの多くが私有財産であり、原則としてこれらは私有財産として復興されるべきものだということになる。
 大企業設備の復旧は必要に応じて大企業自身が投資を自らの判断で行うであろう。むしろ懸念されるのはこれを機会にして生産拠点をアジアなどの新興国に移転させる動きが加速することである。
 中小企業、零細企業の場合、借り入れを抱えたまま設備を失ったケースも多い。事業を行う人的能力、技術的能力、販路がありながら営業が再開できないまま経営危機に陥っていくことになる。資金さえあれば、営業を再開でき雇用も確保できる場合に、それを可能にする金融的な準備、特に復興を担うべき地元企業への株式資本を中心とする投資資金の確保は重要課題である。公的な資金、例えば中小企業整備機構の投資活動資金を拡充して活用するなどし、中小企業に事業再開資金を確保する仕組みが必要である。零細事業者の場合は協業関係を築き、生産組合的な形での事業の継続を追求していくことにならざるをえないのではないだろうか。
 住宅は、これまでに確立された災害復旧制度の中で、国の4分の3の補助の下に自治体が被災者に対して低家賃の賃貸住宅として災害公営住宅を提供することになっている。これが復興局面での住宅投資の大きな部分を占めると予想される。
 現在、日本経済を制約する要因は需要サイドよりも供給サイドにある。とくに最も大きな制約要因として、電力の供給問題に注目せざるをえない。福島原発事故により、原発の安全性には根本的な疑念が発せられた。停止している原発の再稼動は行うべきではない。日本は脱原発のエネルギー政策に転換すべきだ。休止していた火力発電所の再開など供給回復はなされつつあるが、原発の再稼動はしないことを前提に考えると、これまでの夏冬の電力需要ピークに対応できる発電能力を確保するには数年を必要とする可能性が高い。
では復興事業自体はその制約の中で順調に行えるだろうか。復興事業の大きな部分は当初は建設投資になると思われる。建設活動を行うのにどの程度の電力が必要となるのかを最新の産業連関表で、生産額に対する電力の中間投入の割合をとってみると、「建築及び補修」0.2%、「公共事業」0.5%、「その他の土木建設」0.6%となっている。これによると建設活動による直接的な電力消費はそれほど大きくなく、電力供給の制約はあまり問題ではないといえるだろう。10兆円の建設投資が誘発する電力需要は金額にして直接的には500億円、間接経路を含めて2000億円ほどである。つまり、復興事業の大部分を占める建設投資は電力多消費型産業とはいえないので、それ自体が電力供給に制約されて行いにくいということにはならない。
とはいえ、電力供給問題は日本経済全体の成長制約要因ではある。特に夏冬のピーク時をいかに乗り切るかという課題がある。民間企業は、これを克服していくため、休日を変更するなど電力消費を分散する措置をとり始めた。ピーク時電力料金を大幅に引き上げるような料金体系をつくるということも合理的な政策であると思われる。特に家庭やオフィスでの冷暖房需要をピーク時にいかに抑えるかという工夫がなされるだけで大きな違いがでてくる。
逆にピーク時の電力供給を強化することも考えられる。もっとも適しているのが、太陽光発電の活用である。太陽光発電は夏場の昼間の冷房用需要が出るときに発電量が大きいわけだから、ピーク時の電力の確保対策として適切なはずである。家庭の屋根に普及させるのも大切だが、商業用のメガソーラー(太陽光発電所)を建設することももっと積極的に検討されてよいだろう。

経済政策の課題
 現下の日本の経済政策としては、被災地の大震災からの復旧・復興を支援する政策がもっとも優先されるべきであろう。
 被災者の生活再建が第一課題である。いまだ仮設住宅が不足している状況で、電気は回復したが水道の復旧が遅れているという場所もある。生活インフラの復旧こそもっとも緊急の課題として対応されなければならない。多くの被災者は仮設住宅の次の住居として災害公営住宅制度があり、自治体はすべての希望する被災者が入居できるように災害公営住宅の建設計画をたてるべきである。
 沿海部における津波被害が今回の大震災の被害の主要な部分をなしている。死者、行方不明2万8千人以上という人的被害の甚大さもさることながら、沿岸部では市街地がほとんど壊滅的となった自治体もあり、市街地の復興には大きな労力と時間がかかるだろう。
 これまでの津波被害の経験から、沿海部の津波に対する防災体制は、これまでの数十年間に経験した規模の津波に対してはかなり強固なものであったと思われる。しかし、今回のような想定以上の大きさの津波には既存の多くの防災体制は不十分なものでしかなかった。津波被害に対する防災の考え方を根本的に転換しなければならないのではないかという反省を求められている。今後は、堤防などで既存の集落を守る、津波が来たら安全な場所に逃げるというこれまでの防災の発想を転換し、はじめから居住区は十分に安全な場所に建設していくということが求められている。すでに一部の被災地自治体からは海岸に近いこれまでの住宅地を高台に移すことを希望する声も出ているし、復興構想会議でも取り上げられている。岩手県の復興ビジョンでも有力な選択肢とされた。具体的には被災地の実際の地形を考慮し、地元住民の声を重視して決定していくべきであろう。
一方、住宅地として必要がなくなった従来の臨海部の土地はいったん国や自治体が買取り、住宅地以外の用途に利用すべきだ。港湾を維持する場合には、水産産業関連施設を配置したり、風力発電所、メガソーラーなどに自然エネルギー利用に転用することが考えられる。風力発電は効率が高い自然エネルギー利用であるが、騒音(低周波音)などの問題があり、住宅地からはある程度の距離を置く必要がある。風力発電に適した臨海部(あるいは洋上)には風力発電所を建設し、住宅地に近い部分にはメガソーラーを配置するといった工夫ができるだろう。部分的に緑地を残すことも考えられる。そうすることで被災住民の経済的な基盤も保障できる。同様のことは津波被害だけでなく、原発事故被害で利用できなくなった土地にもあてはまる。
 高台等への市街地の移動を行う場合、これまでの木造一戸建て住宅を中心とした市街を再現するのではなく、災害公営住宅として防災上も有利な耐震共同住宅を中心に建設すれば、高台の土地が狭い場合にも建設が可能だろう。例えば、地域のコミュニティの実態、世帯構成を調査、考慮したうえで、店舗、保育所、集会所、医療施設(診療所)、介護施設(ステーション)を1階に配置した中層(10階程度)の賃貸共同住宅群(団地)を高台に建設する。高齢者が多いことに対応してバリアフリーの設計、さらに、断熱効果が高い設計としつつ太陽熱利用の給湯暖房などで省エネ効果を高め、遠隔医療などのサービスが受けられるようにIT環境を万全にすることも検討されて良いだろう。被災者は希望すれば入居できることとし、被災した旧来の町内の居住者および親族が隣接する数棟に優先的に居住できるような仕組みを導入することが望ましい。
次に重要なのは働く場の再興である。休業補償などの手当てがされてはいるものの、被災地での失業問題は深刻化している。水産業の復旧は漁業もさることながら水産加工業では壊滅的な被害を被った中小、零細企業が多く、経営問題が深刻である。設備購入のための借入金がそのまま残り、設備のほうは跡形もないという状況に追い込まれた事業者も多い。現在は返済猶予措置で倒産を免れているものの負債がなくなるわけではなく、新たな借り入れを行うこともできないため、能力があっても事業を再開できないケースが多い。この問題への早急な対策が必要である。生産協同組合的な仕組みを作りつつ、公的な金融支援を行うことが可能ではないかと思われる。
 一方、被災中小企業では首切り問題が起きており、労働者も震災だから仕方がないというムードになってしまっている。地域の労働組合は反失業こそもっとも重要なテーマとして組織的な取り組みを行うべきだろう。
 
転換すべきエネルギー政策
 福島原発事故は、あらためて原発の危険性を浮き彫りにした。各地の反原発運動を強めていくことは勿論であるが、エネルギー政策の根本的転換をめざすことも必要である。注目されるのは、エネルギー供給の面においてより、再生可能エネルギー(自然エネルギー)の利用にシフトしていくことである。太陽光発電、風力発電、地熱発電の可能性を科学的に地理的条件を分析し開発していくことが必要である。
 同時にエネルギー需要面においてエネルギー消費の抑制を図る政策も必要であり、公共料金としてのエネルギー価格を相対的に引き上げることはやむをえない。ただし、中低所得の一般消費者に配慮した方法は可能であり、例えば電力料金は大口料金をさらに上げる一方、家庭向けでは基本料金はマイナス設定して、従量料金を大幅に引き上げるなどすることも可能だろう。従量料金から電力消費税として税収を得ることで、それを原発事故補償にあてたり社会政策支出へ振り向けることも検討されてよい。
震災で生まれた状況を逆手にとって具体的な自然エネルギー利用を提起、要求していくことも可能だ。例えば、東日本大震災の影響により、福島原発制限区域内(警戒区域、計画的避難区域、緊急時非難準備区域)では飛散した放射性粒子の影響により、制限区域内の農業継続は極めて困難な状況にある。こうして農地として使えなくなってしまった土地をどのように活用するか。また農業者に土地と雇用の補償をどのように行うかは大変大きな課題である。その解決手段として大規模メガソーラーの建設と太陽光パネル工場の誘致は現実的な地域政策として提起できる。
大半が福島原発制限区域に含まれる市町村の農地面積はおおよそ170キロ平米である。最大限どのくらいの規模の太陽光発電(メガソーラー)ができるか、この農地の仮に半分にパネルを敷き詰める仮定を措くと、若干のパネル以外の設備用地を考慮しても1平米の太陽光パネル8000万枚、最大出力にして約1200万キロワットが建設可能だ。太陽光発電の場合は日照に依存するので稼働率は12%程度となるが、それでも原発1基分には相当する。投資規模、雇用創出規模を試算してみると、メガソーラー建設に必要な総投資額は約4兆円と見積もられる。建設および維持のため、延べ4万人程度の雇用創出もできる。
発電コストは、当初キロワット時当り35円程度となるが、今後、太陽光発電パネルは量産化の進展によりかなり価格低下が進むと予想され、コストの低下は期待できる。また太陽光発電システムの法定耐用年数は9年であるが、太陽光パネルの実際の物理的耐用年数は20年以上はあると見込まれている。大規模な発電所全体の償却期間はより長く見込んでよいかもしれない。つまり発電コストは通常計算されるよりかなり低いように思われる。
被災地の地元に雇用を創出するためには、太陽光パネル工場の誘致が有効だ。例えば、上記メガソーラー建設が10年かかるとして、年間必要なパネル800万枚の供給を行う工場を建設すると、工場建設に延べ1500人、工場の稼動後のパネル生産で千人の雇用が見込まれる。パネル工場が立地すると、関連産業の立地も期待できる。太陽光パネル工場は、単に地元メガソーラーの建設需要のみに応えるだけでなく、新たな地元産業として位置づけることが可能であろう。
メガソーラー建設と太陽光パネル工場誘致のコンセプトは、宮城県などその他の沿岸地域で津波、塩害にあった農地にも適用できるだろう。
東北地方全体の産業構造をみてみると、農林水産業や食品加工のウェイトが高いのと、電子デバイス、半導体、医薬品、自動車部品などの立地に特徴がある。ただし、いずれの産業も他地域に比べて付加価値生産性が高いとはいえない。今後の新分野として自然エネルギー利用や環境関連に焦点をあててみてはどうだろうか。神戸のケースでは、震災後、医療領域に焦点をあて、「神戸医療産業都市構想」を掲げ、研究拠点の立地などに努力した。今回も、既存の各地の研究開発拠点集積地と同じことを行うのではなく、自然エネルギー利用や環境関連に絞った研究開発拠点づくりを行い、関連産業誘致を行うことが東北地方の産業強化には意味があるのではないかと思われる。

復興計画プロセスの民主化
 最後に被災地復興のプロセスに対する民主化という課題がある。政府の復興構想会議はいわゆる有識者をや被災県知事を集めたものだが、真に被災住民の声を集めたものといえるだろうか。理念ばかりが先走っていないだろうか。宮城県の震災復興会議も外部の有識者の集まりであるし、岩手県の場合も地元の人々中心ではあるが業界団体、利益団体のトップばかりを集めたものになっており、もっとも被害の大きかった三陸地方の代表は少ない。復興計画を具体化していくにあたっては、財政的な制約問題や金融問題は国、県などで解決を図っていくとしても、まちづくりをはじめとする復興の具体的な姿については、地元自治体における民主的な討論、被災者からの意見の吸い上げを基本としていくべきである。


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