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(ノート)アメリカ民主社会主義者(DSA)について

アメリカ民主社会主義者(Democratic Socialists of America = DSA)が急速に組織を伸ばしている。政党ではなく活動家集団という位置づけであるが、事実上はかつてのアメリカ社会党の後継組織と言える団体である。1972年にアメリカ社会党が崩壊してから、その左派の流れを汲む民主的社会主義組織委員会と学生運動から生まれた新アメリカ運動の2つの団体が1982年に合併してできた組織である。
2015年頃までベトナム反戦運動世代を中心に6000人程度であったメンバー数が、2016年以降、急速に加入者が増加し、現在のメンバー数は昨年夏の段階で9万5000人に達しており、さらに増加しているようである。メンバーの年齢も若返りしていて平均30歳程度ではないかとされている。全く新しい組織に生まれ変わったとも言えそうだ。
なぜ、アメリカでこのように社会主義運動が伸びているのか、活動家のCさんに話を聞いてみた。Cさんは4年前に加入し現在は地域の組織評議会の一員として活動している。
まず、なぜDSAが伸びているのか、であるが、Cさんは圧倒的にバーニー・サンダース効果であるという。2016年の大統領選挙でバーニー・サンダースが民主党の大統領予備選挙に出馬し、ヒラリー・クリントンとかなりの接戦を演じたことが、多くの左派的心情を持つ人々に左派の可能性を感じさせ勇気づけた。DSAがサンダースの支持団体として有力であったことから、ここに結集しようという動きになったと言う。Cさん自身もその一人であるというわけだ。
DSAは政党ではなく活動家集団であるとはいえ、その組織はかなり政党的である。地域ごとに地域本部(チャプター)があり、現在は全国で238箇所に上る。空白地域も多いため、DSAは空白地域での支部結成を呼びかけている。
地域本部では全体集会が月一回開かれて党員の一票づつの投票でさまざまな決定がなされる。幹部による意思決定が先行するのではなく、党員の参加がかなり保障されている制度が整っている。ただし、全体集会といっても参加率はそう高くはないそうだ。Cさんの所属する組織での全体集会への参加率は概ね2割で、出席する人は決まっており、活動する人とそうでない人に別れているのが問題であると言う。加入したものの会費を払うだけという人も多いという。それも財政寄与で良いことだが、課題はいかに実際に活動する人を増やすか、というのがC氏の考え。加入要件がゆるすぎるからではないか、と質問を向けてみたが、あまりにきついよりはまずは加入してもらい、それから活動への呼びかけをする方が広がるのではないか、という点で意見は一致した。全国で唯一シアトル市議会に議席を持っているSocialist Alternativeという団体は加入要件が厳しく、申込から承認まで数ヶ月かかるので、これではメンバーは増えない、とC氏は批判する。
最近の月例の全体集会には会場に40人、ZOOMでの参加が110人程度で150人ほどの参加だったという。会員の10%程度の参加である。ここでは、パートタイムの専従者を置くかどうかの議論が行われ、2名を雇用する案に対する修正動議(1名に絞る)が議論され反対多数で否決された。
そのほか、中絶禁止反対の行動への参加(費用負担)、中絶禁止反対のワーキンググループの結成と、併せて3つの提案の採決は72時間以内のネット投票で行われるとのこと。これにはネット投票サイトが利用されている。
地域本部にはいくつか運営の役割ごとの評議会があり、組織、国際、技術(IT)、データ、警備、会員への参加呼びかけ、といった役割を分担している。この人々が役員と言える存在のようである。
また政策テーマによるワーキンググループがあり、Cさんの地域本部では労働、選挙、環境社会主義、健康、住宅などとなっている。会員が全体集会に提案して新しいワーキンググループを作ることも可能なようで、今回の中絶禁止反対のワーキンググループもその一つである。その他、グループは自由に形成できるようで、マルクス主義文献を読むグループといったものもある。
地域本部の下にさらに地区があるが、特に決議機能のようなものはないようだ。地区によって活動には差がありそうである。
活動についての連絡、意見交換やドキュメントの配布などには、Slackというアプリケーションが使われており、Googleのファイルシステムなどとも連携して「活動」が行われているようだ。この辺りは若い人が主導してITの活用を十分におこなっている様子である。
会員数は増加しているものの、辞める人も多く、出入りが大きくなって全体数はやや頭打ちになってきているそうで、活動する人を増やすことが急務であるとの問題意識をCさんは持っていた。

(2022年9月21日)

(参考)DSAの分派について


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