(メモ)技術の資本化

現代において「技術」は生産過程において相対的剰余価値あるいは特別剰余価値を生産する手段となるだけでなく、そうした剰余価値生産を行うことができる手段として対象化され、それ自体が資本となっている。それは国家権力によって特許権や工業意匠権、あるいは著作権の認知により、知的財産権という資本の私有を保証する法制度によって、私的に所有される無形の生産手段=資本に転化するのである。物理的な生産手段は大概が物理的に摩耗、破損するか陳腐化することによって価値を減少し、その減少部分が生産過程において不変資本として生産物の価値形成に加わる。
知的財産権の場合は、その権利の保証が法的に定められた年限であり、該当年数が経過するか、陳腐化することによって価値を減少するが、物理的な生産手段と決定的に異なるのは、その利用が物理的、空間的に制約されていない点である。技術は適用された生産が増加すればするほど、生産物の価値に占める技術の価値の減少分が極小化していく。
自社で開発した技術による特許権などを、他の企業に有料で供与して料金を稼ぐことも可能である。典型的なのはコンピュータ・ソフトの開発・販売であろう。一般のソフトウェア「販売」企業は、著作権を「購入」者に貸与しているだけであり、著作権を譲渡しているわけではない。仮に「購入」者が不正コピー、配布を行えば、窃盗と同様に刑法犯となる。ソフトウェアの「販売」量は大きく変動する性格のものでもあり、ポピュラーとなったソフトウェアの販売額のほとんどは利潤であるとみなすことができる。マイクロソフトのオフィスのようにデフォルト・スタンダードになると、そのブランド力だけで収入を得ている部分が大きく、著作権そのものから特別剰余価値を得ていると考えられるのではないだろうか。つまり、レントとなっている。
さて、他企業に特許や技術提供で特許のライセンス料やロイヤリティーを得る場合はどうか。事業活動において、本来の利潤(剰余価値)が、自己資本、他人資本に分配されるが、通常、借入などの他人資本には利子支払いが生じる。一方、ライセンス料やロイヤリティーは、支払い企業側の会計では費用計上されている。特許のライセンス料とかロイヤリティーは、技術などの無形資産の所有権の移転(譲渡)ではなく、その無形資産の使用に対する賃借料である。技術の所有権者は、その使用を他者が利用することの対価を受け取っているわけで、技術を譲渡するわけではない。つまり、本質的には、不変資本として生産過程に入って価値形成するわけではなく、他人資本である「技術」に対する利潤の分配が、技術料などの本質的な性格ではないのだろうか。
国際収支統計の上では、技術そのものの譲渡は資本収支に分類されており、ライセンス料、ロイヤリティーはサービス収支に計上されて区別されている。通常、技術貿易(輸出入)と表現されるのは、このサービス収支の部分を指している。しかし、本来は資本による利潤の一部であり、所得収支に分類すべき性格のものではないか、と考えられる。

(メモ)技術貿易収支にみる日本企業の技術力

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