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「日本人は豚になる」を読んで

三島由紀夫の文章を引用しながら、近代以降の世の中が内包する様々な問題を、痛烈かつ二ヒリスティックに批判をしていく、という内容。

「我々は意識的に努力を続けないと正気さえ維持できない時代に暮らしているのである」

「狂人とは理性を失った人ではない。狂人とは理性以外のあらゆるものを失った人である」

「言論の自由の名のもとに、人々が自分の未熟な、ばからしい言論を大声で主張する世の中は、自分の言論に対するつつしみ深さといふものが忘れられた世の中である」

文化とは、宗教とは、言語とは、馬鹿とは、多くの議題に対して意見を述べているが、基本的な作者のスタンスは、「近代以降の世の中は取り返しのつかないところまで来ている」という感覚であり、この文章が世の中を大きく変えるという希望(作者の言葉を借りると「自惚れ」)は持っていない。

故に、何かの改善方法を求めている方には、はっきり言ってこの本は向かない。諦めと皮肉の香りが漂う本書である。だが、今の世の中に対して言葉にならない違和感を持っている人は、本書を通して、自分の感情を表現するのに"しっくりくる"言葉が見つかるかもしれない。

私自身、議論をしているときにとても嫌な気分になることが増えたなと感じる。目の前のこの人は、私のために話しているのか、世の中のために話しているのか、それとも自分のために話しているのか。自分の意見が絶対に正しい前提で唾を飛ばす人に対しては、この本を突きつけてやろう。三島の言葉を借りれば、そいつは馬鹿である。

随所に周囲を小馬鹿にした表現が見られる(というか、恐らく実際に馬鹿にしている)ので、拒否反応を示す方もおられるはず。本の題名自体が尖っているので、本著を選ぶ時点で皆様ある程度の免疫があるとは思うが。

近代を否定的に捉える部分が多いが、全てがダメだと私は思えない。ただ、近代化の中で失ってしまったものは絶対にあるし、その中には無くしてはいけなかったものがあることも直感的にわかる。
同じような感覚を持っている方に、この本はオススメだ。

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