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ディーン・スミスは愛する人のため、愛するクラブのために戦う

会見やインタビューで発せられる言葉からは、監督の個性が見える。
「おもしろい」、「情熱的な」、「人間味のある」……。
様々な視点から見た「すごい」監督を、サッカーライターの田島大さんが選ぶ。

 今年5月、世界一高価な試合が行われた。勝ったほうが1億7000万ポンド(約240億円)を手にするイングランド2部の昇格プレーオフ決勝戦だ。その試合で、今やチェルシーで名将候補と称えられるフランク・ランパードのダービーを倒したのが、アストン・ヴィラ率いるディーン・スミスだった。

 彼は決戦の前日、会見場で言葉を詰まらせた。「悔しいけど、父は認知症のせいで私がヴィラの監督だと分かっていない。それが何よりつらいんだ……。失礼……」。そう言い終えたあと、深呼吸して涙をこらえた。

 スミスは熱狂的なヴィラファンであり、そのクラブ愛は、20年以上もヴィラの本拠地で警備員を務めた父譲りだ。だが、父は病魔におかされて介護施設に入っている。スミスは見事に昇格を決めると、試合後の会見で数日前に交わした約束を明かした。「父が2分ほど目を開けてくれたからこう伝えた。『次に会いにくるとき、僕はプレミアリーグの監督になっている』とね。すると父が笑ったように見えたんだ。通じ合えたと思った。それだけで十分だった」

 愛する人のため、愛するクラブのために必死に戦う。監督は、それだけで十分カッコいい。

田島 大(Dai Tajima)
学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で、日頃から欧州サッカーを扱う仕事に邁進。特にイングランドに関する記事の翻訳や原稿を執筆。訳書には『奇跡のコーチング クラウディオ・ラニエリ伝記』(TAC出版)がある。

この記事は、12月13日発売の雑誌『SOCCER KING』1月号から抜粋したものです。ほかにも、「CRAZY MANAGERS」と題し、ユルゲン・クロップ、ジョゼ・モウリーニョ、ディエゴ・シメオネなどを取り上げています。

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