北海学園文学会ウェブエッセイ㉑「足の爪がもげました」

 足の爪がもげました。部分的に。親指です。いちばんかけがえのない爪が、かけました。

 完全に剥がれたわけではありません。ギリギリくっついたまま、ある程度剥がれかけていました。とりあえず爪をギリギリまで切ってダメージの割合を狭めよう。そう思って、階段をのぼり爪切りを取りに行く。その過程で、剥がれ具合がやや増しました。

 爪をギリギリまで切ったのですが、言うほどヤバみは変わりませんでした。爪付近を洗ったりなんだりで清潔にしてから、とりあえず絆創膏を貼ってみました。とれました。

 絆創膏を強めに貼ってみました。意外といい感じでした。歩きました。とれました。

 サージカルテープをぐるぐる巻きにしてみました。歩きました。爪取れた方がマシなぐらいの痛みを感じました。

 結局絆創膏の上から包帯テープみたいなのを巻くことで事なきを得たり得なかったりしました。

 テレビには、サッカーの試合が流れていました。ドリブルするノルウェー代表選手を見て、僕サッカーしばらくできないや……どうしよう……と一瞬思いました。最後にサッカーをしたのは四年前の秋。スポッチャのバブルサッカーです。人間がボールの着ぐるみみたいなのを着てサッカーするやつなのですが、あれを着て転がるの思ったより怖かったです。三半規管がゴミなので、余裕で酔いました。でも楽しかったな。またいつかやりたいな。

 明日からどうやって歩けばいいのでしょうか。爪の神様、教えてください。そんな心境で顔を真っ青にしていますが、正直大袈裟です。二週間ぐらい安静にしたら完全に元通りなるぐらいの大きさです。ビビりすぎです。それはそれとして、自由に歩き回れないのは嫌だな。

 僕は無駄に歩き回るのが大好きです。知らない駅で降りて、疲れて動けなくなるまで色々歩き回ってみたり。よくそういうことします。僕は基本的に孤独が好きじゃないのですが、歩き回っているときだけは、唯一ひとりの時間を楽しめます。あーでも、アニメとか映画化とか観てるときも楽しいな。読書も。ごめんなさい、唯一じゃなかったです。

 とにかく、ひとりで無意味に歩き回るという競技の選手生命が、二週間ぐらい絶たれてしまいました。悲しい。とても悲しい。

 足元を見て生きることの大切さを知りました。特に、スーツケースを広げているときは。ありったけの包帯と愛を胸に、残りの二十六日間しかない八月を精一杯楽しみたいです。応援よろしくお願いいたします。

ソブリテン

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