ただの布切れなのに


「LGBTQ」という言葉をご存知だろうか。

今を生きている人類にとって、1度でも聞いたことがある言葉。

今や、学校教育においても、その名を聞くことが多いように思う。

そんな時代に対応して、あたしの通っている学校の制服は、女の子に限り、「スカート」か「スラックス」を選べるようになっている。

胸元につける飾りも、「リボン」か「ネクタイ」を選べる。

ここで、男の子の制服に関する疑問を投げかけたいところだが、今回の話の趣旨からはズレてしまうので、あっちの方へ置いておくとして。


私は、スカートが苦手だ。

が、今学校に通う時に身につけているのはスカートだ。

理由は、入学時に、母にスラックスを身につけるのを反対されたからである。

実のところ、通っていた中学校にもスラックスはあったのだが、その当時も「スラックスを履きたい」と母に言ってみたものの、

頭を悩ませてしまったので、子供心ながら母を気遣って、3年間、きっちりスカートを履いた。


が、その3年間で思ってしまった。


やっぱスラックスがいいな。


特にこれといった理由はないけれど、なんとなく、そう思った。


そして話は戻り、今の学校に通うことが決まり、制服採寸に行った際、3年越しに言ってみたのだ。

「あたし、スラックスも履きたいな」

も、というのはあたし的な妥協で、スカートも履くってことにすれば、許諾を得られるのではないか、と考えたのだ。

しかし、母の解答は3年前と変わらずだった。

母は「いじめ」をどうやら気にしていたらしい、ということを知ったのは入学して少ししてからだった。

母曰く、スラックスを履けばそういう子だと思われる、ということだった。


そういう子、というのは多分冒頭に言った「LGBTQ」のことだろうと、今なら推測できる。


物珍しいから、変な目で見られるんじゃないか、ということだ。

しかし、母の心配を他所に、実際にスラックスを履いている女の子は校内にたぶん、みんなが想像してるより居るし、冬になるとスラックスを履く女の子の割合は高くなる。

私の周りの友人も、半分くらいはスカートとスラックスを持っている。

多分母の思うことは誰も気にしてないし、スラックスを履いている、という理由だけで声をかけられている人もいない。

こんなこと言ってはなんだけれど、気にしてるのは、母だけなような気がした。


そもそも、何故スラックスを履きたいのか、と聞かれても、これと言った理由はない。

基本ズボンが好きなだけで、気分によってスカートを履くこともある。

自分の性別に違和感も持ったことは、今のところない。

ただ、あたしはスカートをなんとなく履きたくなくて、スラックスを履きたいと思うだけ。

こんなちっぽけな悩み、たぶん大抵の人はどうだっていいだろうし、あたし自身も、気にしないと思える時は「ただの布切れ」と思うことが出来る。


けど、ごく稀にそう思えな日がある。


「どうしてスカートを履いてるんだろう」

答えのない問いにぶつかった時、ふと母の言葉を思い出してしまう。


「そういう子」

そういう子って、どういう子?

あたしは自分の性別に違和感を感じてないのに、どうしてスカートを履きたくないんだろう。


ただの布切れなのに、どうして身につけるのが嫌なんだろう。


そんな疑問を心の入れ物に蓋をして、今日もあたしは、スカートのチャックを閉めた。

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