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糸と布

僕らは、大きな穴の真ん中に立たされている。それは一人一人、各個人に用意されている穴だ。直径五百メートルくらい。穴の底は見えない。落ちれば死ぬだろう。足場になっているのは、糸。サーカスの綱渡りのように、大穴の端から端を穴の中心を通る形で繋いでいる。糸の太さや、糸の本数は人それぞれだ。

イメージしにくいと思うので、一例として、人物A、B、Cの状況をみていこう。

まずは、人物Aから。渡されている糸は一本。糸の太さはそこそこあるが、本数が一本しかないので足元は大きくグラグラ揺れて不安定。しばらく様子をみていると、糸が突然切れてしまったようだ。人物Aは穴の底に落ちてしまった。

人物Bを見てみよう。糸は三本。糸はクロスする形で渡されており、中央で交わっている。糸の太さは人物Aとそう変わりないが、先ほどより安定しているようにみえる。

人物Cを見てみよう。糸は数えきれないほどたくさんある。無数の糸が交差しており、まるで布のようになっている。人物Cは穏やかな顔で布になった糸に寝転がっている。

僕らは、この世界を一人で生きていけない。繋がりが必要だ。繋がりとは、糸のことであり、糸を失うことは、僕らの足場を失うことだ。足場がなくなれば、僕らは底に落ちる。

僕らがこの世界に安心して立ち続けるには、糸を太くしたり、糸の本数を増やしたりする必要がある。数が少なかったり、糸が細かったりするとバランスを崩したり、糸が切れたりして穴の底に落ちてしまう。

人によって何が糸になるかは違うし、太さも違う。恋人かもしれない。両親かもしれない。友達かもしれない。創作活動をすることかもしれない。おいしいごはんを食べることかもしれない。映画をみることかもしれない。

僕が思うに、糸になりうる要素は次の六つがあると思う。是非あなたにも考えてみてほしい。

一・人(恋人や家族、友人など)
二・自分が取り組みたいこと(夢や目標)
三・エンタメ、娯楽
四・趣味、好きなことや物
五・与える、支える(子供ができる、重要な役割を担う、ペットを飼うなど)
六・生活(習慣、毎日黙々と向き合っている物事)

別になんでもいい。世界と自分を繋いでくれる糸はたくさんあればあるだけいい。いろんな糸のつくり方があっていい。糸をもらうばかりじゃなくて自分から積極的に糸を作ってみてもいい。ある程度、糸が集まると、最終的に糸は布になる。穴に落ちる心配はもうない。たまに切れる糸もあるだろうけど、ほかの糸が僕らを支えてくれる。

あなたにとっての糸は何だろう。すでにある糸をゆっくり手でなぞってみてほしい。
繋がりこそが、あなたを救ってくれるはずだ。


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