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初めてパチンコ屋に行ったらとんでもない目に遭った話

私はこれまでの人生、とても真面目に生きてきました。パチンコや競馬などのギャンブルはもちろん、酒もタバコも浮気もしたことがなく、仕事一本の人生でした。

そんな私ですが、ある日ふと思い立ってパチンコ屋に入ってみました。
初めて打つパチンコはルールもよくわかりませんでしたが、ビギナーズラック、私は大勝ちしたらしく、パチンコ台から大量のパチンコ玉が出てきました。

私はウキウキでそのパチンコ玉を換金しようと受付に行き、店員さんに「すみません、これお金に変えて欲しいんですけど」と言いました。
すると店員は「皆様あちらの方に行かれます」と言うのです。

私は「はあ?」と思いました。会話が全く成立していません。
私が再度「いや、お金に変えて欲しいって言ってるんですけど」と言っても「皆様あちらの方に行かれます」と、手で「上」を指し示しながら言うのです。

埒があかない店員と私は口論になり、「あっちってどこだよ!しかも上って!」と言いながら、思わず店員に殴りかかってしまいました。
それを華麗に避けた店員は私に強烈な蹴りを入れてきました。そこで私の意識は途絶えました。


目を覚ますと、そこは真っ白な空間でした。
私は悟りました。私は店員との喧嘩で命を落とし、天国に来てしまったのです。店員の指していた「上」とは、天国のことだったのでしょうか…。

死んでしまったものは仕方がないのでとりあえず散歩していると、なんと天国にもパチンコ屋がありました。
パチンコマルハン天国店。通称「天パチ」というらしいです。流石、業界大手は天国にも進出しているんですね。

天パチでパチンコを打ってみると、なんといきなり大当たり!
ラッキーと思いましたが、それは勘違いでした。どの台を何回打っても毎回大当たりなのです。そう、天パチでは全ての台が極楽設定だったのです。
これでは刺激もなく、全く面白くありません。画面の中ではしゃぎ続ける水着の女にもだんだんイラついてきて、私は恐らく人類で初めて、確変中に台パンして打ちやめました。

そしてがっかりしながらパチンコ玉を換金しに行くと、また店員は「皆様あちらに行かれます」と、次は「下」を指し示しながら言うのです。
私は「またか」と思いました。何でこの瞬間だけ会話が成立しなくなるのでしょう。

それから私はあの日と同じように店員と口論になり、店員に殴られ、意識を失いました。


目を覚ますと、そこは灼熱でした。
天国で店員と喧嘩をした結果、私は天国から地獄に堕とされてしまったのです。

地獄での日々はひどいものでした。針の山に登らされ、マグマの風呂に入れられました。閻魔様に抜かれた動物のベロを無理やり食べさせられたりもしました。まさに地獄です。

ストレスから逃げたくて私は酒に手を出しました。死にそうになりながらマグマ風呂から上がった後、仲よくなったおじさんとビールを酌み交わすのが日々の唯一の楽しみでした。


そんな時、ある噂を耳にしました。
地獄のパチンコ屋で大当たりを出すと、なんと人間界に生き返れると言うのです。

私とおじさんは、閻魔様がいない隙をついてパチンコベガスベガス地獄店、通称「ヘルパチ」に通うようになりました。
閻魔様は多忙でよく人間界や天界に出張しているらしく、ヘルパチに行く時間はたくさんありました。

しかし、全く当たる気配はありません。予想はしていましたが、ここでは全ての台が地獄設定だったのです。
画面の中のケンシロウに「お前はもう死んでいる」と言われるたびに、「そんなのてめえに言われなくてもわかってるよ!」と叫び発狂しました。

私とおじさんは毎晩毎晩通っては負け続けました。
私がパチンコ屋の店員がおかしい話をすると、「それは三点交換方式と言ってね…」と、パチンコ屋の作法を教えてくれました。そうか、あの人たちは会話が通じないわけじゃなかったのか。

そんな生活を続け約10年、生き返るのはもうとっくに諦めていたその晩、私はついに大当たりを引き当てました。
ついに念願の生き返りです。おじさんとの別れは少し寂しかったですが、おじさんは笑顔で送り出してくれました。


それから私はまた人間界で働き始めました。
しかし、日々の仕事が手につきません。私は長い地獄生活で重度のギャンブル依存症になっていたのです。
結果妻には離婚を切り出され、やがて仕事もクビになってしまいました。

無職になった私はそれでもギャンブルを止められず、なけなしの金で酒を飲む日々でした。すれ違う人からは後ろ指を指され、私の居場所はどこにもありませんでした。

私は気づきました。
本当の地獄は、この世だったのです。

思い返せば地獄での生活は良いものでした。なんとなく雰囲気でつらいと勘違いしてましたが、針山で足つぼマッサージをしてマグマの温泉で汗を流し、タンをつまみに酒を飲む日々なんて、よく考えれば最高じゃないですか。
そして何より、おじさんという仲間もいます。

「地獄に戻ろう」
私は決意しました。

しかし前と同じ方法で確実に地獄に行くためには、
1. 私が最初に行ったパチンコ屋に行き、
2. 店員と喧嘩をして天国に行き、
3. 天国でつまらないパチンコを打ち、
4. また店員と喧嘩をして地獄に落とされる
…というステップを踏む必要があります。

「面倒臭い…」
私は億劫でした。しかし、やるしかありません。


私は最初のパチンコ屋に行き、パチンコを打ちました。やがて大当たりを引き、私は店員に「換金したいんですけど」と言いました。
あの日と同じ店員です。この後この店員が「上」、天国の方向を指しながら「皆様あちらの方に行かれます」というはずです。

しかし私の予想に反し、店員はなんと「皆様あちらの方に行かれます」と「下」、地獄の方向を指しながら言ったのです。

この瞬間、私の中で全ての点と点が繋がりました。

かつての私はギャンブルもせず、ひたすら真面目な人生を送ってきました。だから私はあの時天国に行きました。
しかし今の私は無職でギャンブルにはまり酒に溺れる毎日。よって地獄がふさわしいと判断されたのでしょう。

そう!この店員こそが人間の死後、天国に行くか地獄に行くかの審判を下す、地獄の大審判員・閻魔さまだったのです!
地獄でよく席を外すと思ったら人間界に来て出張審判をしていたんですね。

おじさん、思ったより早く戻れそうだよ。
私はあの日と同じように店員に殴りかかりました。

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