インターネット上の誹謗中傷|法的対抗手段は? どうして減らない? 今後はどうなる?
今回の話題は「インターネット上の誹謗中傷」についてです。ネット上で行われる「度を過ぎた個人攻撃」ですね。
根拠のないデマを流したり、プライバシー情報を暴露するような悪質なモノのもあって、ターゲットにされた人の精神的なダメージというのは相当に大きく、深刻な精神疾患や自殺に至ってしまうような事例もあります。
今日は、今使える法的な対抗手段の話からはじめて、今後の展望についても語ってみたいと思います。
1:まず、法的な対抗手段は?
上記のような被害の深刻さもあって、現在は、投稿者(いわゆる犯人)の身元を特定できるような法律的な手当もされるようになり、被害にあった方は、いくつかの手段が使えるようになっています。
まず、投稿場所のウェブサイトの管理者に対して「誹謗中傷投稿の削除」を依頼することができます。依頼用のフォームを用意しているサイトであれば、そのフォームから。そうでなくても、標準の書式(http://www.isplaw.jp/p_form.pdf)を利用することができます。
また、投稿者の身元がわかるような「発信者特定情報」の開示を請求することもできます。こちらは裁判所の手続を利用するのが一般的です。身元を辿るために投稿先のウェブサイトの管理者と合わせて、通信会社(インターネットサービスプロバイダ=OCN、So-net、BIGLOBE、nifty、ODN等)にも請求する必要がある場合もあります。
この手続は、データが消去されてしまうまでのタイムリミットもあって、時間との戦いになります。ただ最近、法律の改正(プロバイダ責任制限法)があって、対象のデータを保護するための命令を裁判所が出せるようになり、多少手続きがやりやすくなる方向性になっています。
最終的に相手の身元がわかれば「誹謗中傷被害についての慰謝料」や、上記の「削除依頼」や「身元特定にかかった費用」を損害賠償として請求をすることもできます。これは任意の交渉でも、民事裁判でも。加えて悪質なケースでは 「名誉毀損や業務妨害の罪」で警察/検察に対して刑事告訴することも可能です。
2:法律的な手段が整った背景事情
ちなみに、こういった法的手段が準備されるようになったのは、ネットの普及率が50%を超えた2002年ごろなんですが、これはインターネットの普及に伴って、誹謗中傷の被害が社会的に無視できないレベルになってきたからですね。
お隣韓国でも、最近有名人が誹謗中傷が原因で何人も自殺してニュースになっていますが、 日本でも、重篤な精神疾患や自殺に至るケースなど、深刻な状況が広く知られるようになってきました。
誹謗中傷というのは、やり方としても、公開の場であるネット上で堂々と行われて、人を精神的に傷害したり、脅迫したり、場合によっては死に追いやったりする行為なわけですから、これに対して、何も対処しないままに、 放置することはできないと考えられるようになったんですね。
実際、慰謝料請求や刑事告訴のような事後的な対応ことだけでなく、義務教育のレベル段階から、インターネットで何をどこまでやっていいのか、利用上のマナーとして教育が行われるようにもなってきており、「度が過ぎた誹謗中傷行為は、犯罪になる」ということは、かなり周知されてきています。
なので、現在の対応策としては、被害にあった時には「あなたのやっていることは犯罪です。 これ以上は、弁護士と警察に対応を求めます。」と、相手にやっていることが犯罪なんだということと、こちらの対応方針をキッパリと知らせて、それが無視されば、淡々と対応策を取る、というのがスタンダードになってきています。
3:それでもどうして減らないのか 〜メディア特性と加害者傾向〜
ただ、そういった対応手段が普及することで、社会から誹謗中傷が目に見えて減っていっているかと言うと、なかなかそうならないのが悩ましいところなんですね。
これって、インターネット上のやりとりって相手の様子が見えないですし、自分の言葉が、どのくらい相手にダメージを与えているかわかりにくいことが一因で。私はこんな例えをすることがあります。
自分が「目隠し」をしていて、「どんな威力の武器を自分が手に持っているかがわからない」状態、しかも「相手にどんな風に武器が当たって、どのくらい相手が弱っているかわからない状態」で、勢いのまま殴り続けたらどうなるでしょうか?
そうなると「気がついたらやり過ぎてしまっている」「相手が死にかけている」ってことは、起こっても全然不思議じゃなですよね。
そして、実際の事件の加害者というのはおおむね「何らかの理由で社会的に孤立していて、ネット上のやり取りにストレスをぶつけている」人たち、つまり、その人も「精神的に追い込まれて不安定な状態」の人たちで。自分の行動の影響とその結果を十分想像することができないくらいに「認知が歪んだり、思考能力を失っている」ようなことが多いんですね。
だから、実際に逮捕されると「そんなに悪いことだとは思ってなかった」「相手がそんなことになっているとは・・・」と口にする方が多く、精神的な問題を抱えているのも事実だったりするので、 検察や警察、裁判所の方でも、処分が難しいというか、彼ら自身が社会的な弱者であることを考えると、なかなか厳重な処罰ができなかったりするんですね。
つまり、相手の様子が見えないというインターネットというメディアの特性もあるし、今や誰もが陥るストレスからくる精神的な症状の問題が背景にあるので、 法的な手段を強化するだけでは、なかなか解決は難しいんですね。
4:大事になってくる被害者のダメージ軽減
さて、そうなってくると実際に事件が起こってしまった場合に、被害者が受けるダメージを少なくする、ってことが大事ですよね。つまり、ある種の「駆け込み寺」みたいな場所が、社会的にとても重要になってきているんです。
まず、周囲に家族や友人などの人間関係、苦しさを話したり、相談できる相手や場所があればそれが一番ではありますよね。
さらに社会の中で受けられるサポートを挙げると、まず、公的なものとしては「法テラス」「警察」「法務省の人権ダイアル」「被害者支援センター」など、精神的な追い込まれ感が深刻な時には「いのちの電話」や「自殺防止ダイアル」なども活用できるかもしれません。
ただ、これらはボランティアベースのものも多く、常にリソース不足でパンク状態になっていることも多く、なかなかすぐに必要な支援が得られなかったりするのが難しいところです。
その隙間を埋める民間のプライベートなサービスとしては、「法律事務所」に行って弁護士にケアしてもらうという方法もあるし、もっと直接的に精神的ダメージをケアするために「心療内科」で投薬やカウンセリングを受けるということも考えられます。
これらは精神的に弱ってきている時に、自分から動かなければならない点でハードルがやや高い部分はあると思います。実際に動く上では、それ以前に周囲の方のサポートが必要だったりするでしょうね。
5:ネット上に「駆け込み寺」は生まれるか?
そして本当は、中傷被害の舞台となっているインターネット上に、こういった対応のための受け皿というか、リソースがあるのが理想だなと個人的には思っています。
過去には「#MeToo」という被害者運動が、しかもとてもセンシティブな領域にもかかわらず、ネット上での被害告発運動として展開されてきたこともあります。であれば、かなりの被害者が存在する誹謗中傷行為に対しても、ネット上に被害経験者のコミュニティが生まれてくることも十分にあり得るわけです。
そういったものができて認知されてくると、誹謗中傷行為に対して、被害の受け皿となるだけではなく、抑止力にもなってくると思うんですよね。被害にあった時に、そのまま過去の被害経験者に繋がれて、その助言を受けながら対処に臨めるとすればどれだけ心強いか。被害にあった人の気持ちが一番理解できるのは「経験者」ですからね。
事件の渦中にいる方が必要としているのは、対処のノウハウ以上に「自分の立場を理解し、全面的に味方になってくれる人がいる」という心強さだったりもするものです。また実際、悲劇的な結末に至るケースというのは、本人が精神的に孤立していて、全てを抱え込んでしまったことの結果であることが多いですから、そういったことも防ぐことができるかもしれません。
実際に、そのようなコミュニティが生まれ、十分な厚みを持ったものへ成長してくるには、ネット社会が成熟していくための時間がさらに必要なのかもしれませんが、個人的にはその可能性は、十分にあるんじゃないかと思っています。
というのも、社会の深層心理的な側面から語るならば、こういう社会的なムーブメントの原動力というのは、蓄積された「怒り」や「哀しみ」だからです。誹謗中傷というのは、不安や恐怖によって相手を押さえつけようとする点で、一種のテロリズムです。その被害を恐れて、さまざまな表現を抑えている方も少なくないですからね。
公開のやりとりだけでなくて、外からは見えにくいDM(ダイレクトメッセージ)によるものや、リアルな電話やストーキングなどを併用した悪質な行為まで含めると、被害にあった人の範囲、つまり、被害の社会的な総量は相当に大きいもの。私たちの社会に蓄積された反発感情は相当なものがあると思います。
そういった社会的に積み重なった感情が何かのきっかけで吹き出して、対抗する運動を生み出したり、そういうものを支える力を得ていくのは、ある面で、時間の問題ではないかという気がするんですよね。つまり、インターネット自体の自浄作用、あるいは免疫作用として、そういったものが生まれてくるのを目撃する日は遠くないと思うんですね。
ということで、今日は、対抗策が徐々に強化されつつある、ネット上の誹謗中傷問題について、今後の展望も含め語らせていただきました。読んでいただき、ありがとうございました^^
動画バージョンはこちらになります。