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パスタ


パスタは繊細な料理だと思うんです。

書いてみて自分で思う。いかにもうるさく語りだしそうな一文だな、と。
他人のうんちく話というのは好きな人は刺激とか学べるとか純粋に盛り上がるとかで楽しめるが、こと料理や食事にまつわる細々こまごまとしたことは、食事の時間をひどく険悪にしかねない。
すき焼きを卵につけて食べる、食べないとか。
白滝を肉に近付けるなとか、そうした事々だ。
からあげに勝手にレモンをしぼって怒られた人って本当にいるのかな。。

話を戻しましょう
パスタについてですね

日本人には広く親しみのあるこのパスタ料理を初めて自分で作ったのは、確か五年ほど前だと思う。
当時インターネットで料理番組を観ることに傾倒していた僕は、その日、アシスタントの女性とやたら距離を詰めるイタリア人の出演する料理番組を観ていた。
テーマはパスタ。
確かペペロンチーノを紹介していたと思う。

材料を見て驚いた。
にんにく、鷹の爪、パセリ。
銀色のトレーの上に乗せられたそれらは
料理番組として不安になる程の圧倒的少なさだった。
番組はそのイタリア人シェフの漫談みたいなやりとりを交えながら進み、あっという間に白い皿の上にペペロンチーノが出来上がった。
「質素だなあ」と思った。
日本のファミレスやコンビニなんかで見かけたら、ルッキズムにうるさい誰かが、ちくちく文句をつけそうなくらい控えめな見た目をしていた。
遠目で眺めれば、茹でたパスタをただ皿に盛ったようにも見えかねない。
アシスタントの女性がそんな視聴者を代弁するような台詞を話してから、フォークで麺をからめて口に運んだ。
二、三回噛み締めた後で、シェフへ向けて、悪戯な笑みを浮かべる。
「おいしーい!!」
カメラに向かって、してやったりと顔を綻ばせるシェフ。
アシスタントの女性は模範的ともいえるオーバーリアクションだ。
咀嚼の都度、だめ押しのように、えー!とか、わー!とか、信じられない!なんて言葉が続く。
もしも今、隣のイタリア人シェフが彼女に突然結婚を申し込んだとしても、勢いでイエスと答えてしまうくらいに舞い上がっている。

過剰なリアクションは、冗談めいていて面白かったが、果たして本当に美味いのか?という疑問が視聴後に頭から離れない。
当時、パスタについて調理経験を含め私生活で馴染みが浅かった僕は、その番組を観て実際にペペロンチーノを作ってみようと腰を上げたのだった。


あれから数年、、
僕はすっかりパスタに魅了されてしまっている。
お湯の量、塩の量。
パスタの太さや種類。
似たようでいて少しずつ違うソース。

そのいずれかを少し丁寧に扱うだけでパスタは出来上がりに大きな差が生まれる。逆も然り。
すべてに気を使えば言わずもがなだ。

パスタ料理を作るときはいつも真剣だ。
失敗したくないし、雑にしたくない。
それはこの数年で経験した多くの過ち所以だ。
今朝はカルボナーラを作ってみた。
朝からカルボナーラかよ。なんて。
わかっている。
わかっていても茹でている。

鍋に手をつけてしまった時点で、パスタと向き合う時間がスタートしてしまったのだから逃げ出せない。
投げ出すことはパスタに失礼だ。

自費出版の経費などを考えています。