【ほぼ1,000文字エッセイ】 夜行バス
深夜11時半。1日が終わりかけているというのに、その場所はエネルギッシュだ。
学生の頃、横浜に住んでいた私は頻繁に夜行バスを使っていた。
理由は簡単。お金がかからないから。
そんな貧乏性な私は帰省のたびにバスを利用するヘビーユーザーだった。
そんな学生時代から3年。先日久しぶりに東京を訪れた。直前まで帰る手段を決めていなかったのだが、ギリギリまで東京を堪能したいと、深夜0時発の夜行バスで帰ることにした。
最後にバスタ新宿を利用したのはおよそ4年前。コロナ渦もあり久しぶりの利用だったが、ファミリーマートがなくなっていたのと土産屋ができたこと以外、何も変わっていなかった。むしろ、コロナ禍前よりもエネルギーに満ち溢れているよう感じた。
私はバスタ新宿の雰囲気が好きだ。
利用者に若者が多いからか、旅が始まる事への期待感が溢れているように感じる。友人同士で行き先の話題に花を咲かせる人や、電話しながら温かい笑みが溢れる人。きっとこれから会う家族か友人に出発を知らせているのだろう。
空港や駅と違い見送る人が少ないからか、皆笑顔で過ごしている。バスの発車時刻と乗り場を表す電光掲示板も、それぞれ全国各地に行き先があり、それに乗る一人ひとりに物語があると思うと、なんだか不思議な感覚になる。
ファミマ改めデイリーヤマザキでお茶を買い、空いているベンチでバスを待つ。ふと目の前の男女2人に目が行った。おそらく大学生のカップルらしい。これから旅行に行くのか、彼氏のスマホを2人で覗き込むように見ていた。
デートで夜行バス。社会人の私が恋人に提案したらドン引きされそうだ。でも、選択肢にバスがあるのも意味大学生の特権。バスの中、隣の席で身を寄せ合いながら旅をするのも立派な旅の醍醐味だ。一夜を共にするのにキスもセックスもできないけど、愛は確かにある。きっと素敵な旅になるんだろうなと温かい気持ちになった。
バスの到着を伝えるアナウンスを聞き、乗り場へ向かう。既にバスは到着しており、運転士さんが座席の案内をしていた。
運転手さんに名前を伝える。この瞬間は何度経験してもドキドキだ。「何かの手違いで予約が取れていなかったらどうしよう。」と心配するも、無事に席を案内されてホッとする。
案内された座席に座り、カーテンを少し開けると、そこには新宿駅の看板が見えた。地元に戻り就職した今は滅多に見れない。東京の旅の終わりの象徴になった瞬間だった。
また来れるといいな。そう思いながら、バスの出発を知らせるアナウンスが鳴った。
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